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軽井沢型テレワークがどこにも真似できない深い理由~自主財源107億円の町に年間500人移住

日本人の「働き方」の変革期に必要な「サロン文化」をいかすという 発想

芳野まい 東京成徳大学経営学部准教授

「軽井沢は仕事をするのにふさわしい場所だよ」

――鈴木さん自身はかなり前からテレワークを実践されていましたね。

拡大鈴木幹一さん(撮影・吉田貴文)
鈴木 元々は広告会社の営業マンで、若い頃は毎日9時半に出社してましたが、徐々にその勤務形態が嫌になり、しだいにクライアントのところに直行し直帰するスタイルで仕事をするようになりました。当時は会社で目立っていましたが、営業マンは顧客と会って情報と仕事をとればいいと割り切って、自主的にテレワークをしていました。結果として顧客との接点が増え、仕事の効率化も図れ、売り上げ拡大にもつながったので、テレワークのメリットは早い段階から理解していました。

 運良く1995年に軽井沢に別荘を買うことができ、金曜夜に来て月曜朝に東京に帰る生活になりました。当時、住友信託銀行におられた松岡温彦さん(『人、われを「在宅勤務社員」(テレワーカー)と呼ぶ―本当の自分を取り戻すための52章』の著者)という方が近くの別荘にお住まいで、初めてお会いした時、「軽井沢は仕事をするのにふさわしい場所だよ」と言われたんです。初めは意味が分からなかったけれど、だんだん分かってきた。

――どういうことでしょう?

鈴木 軽井沢には面白い人がたくさんいて、そういう人たちといろんなディスカッションができる。そこで得たヒントをもとに、別荘のウッドデッキや近くの温泉の露天風呂で思考を巡らすと、アイデアが湯水のように湧いてくる。会社の会議室でアイデア会議するよりはるかにメリットが多いと痛感してました。

 テレワークとかワーケーションとかいうと、会社以外の場所でパソコンを広げてデスクワークをするというイメージがありますが、それだけじゃない。非日常の場所で、人と会ってアイデアを考えたり、ディスカッションしたりするのも立派なテレワークです。

2017年9月のエポックメーキングな出会い

――ご自身が実践されるだけではなく、2018年には軽井沢リゾートテレワーク協会の設立に関わるなど、テレワークの普及に熱心に取り組まれましたね。

鈴木 軽井沢にワーケーションで人を呼び込みたいと思ったんですね。軽井沢はゴールデンウィークや夏休み、あるいは土日は、観光客や別荘族で混雑するのですが、オフシーズンや平日はガラガラになるので、いかに平準化させるかが課題でした。ワーカーは土日は仕事をしないので、月曜から金曜まで働くワーカーを呼び込めば平準化することができ、常に人がいて経済的にも潤うと考えました。

 そこで2017年9月、テレワークの普及を軽井沢でやりませんかと、総務省まで提案に行きましたに。当時、2020年7月に東京五輪が開かれるということで、国は交通混雑緩和のためにテレワークを推奨していましたが、まったく盛り上がっていない。テレワークという言葉が浸透していないし、猛暑の東京の家で仕事しろと言っても、誰もやる気にならないですよね。

 「7月にテレワークをするのなら標高1000mのウエルネスリゾート軽井沢で」という謳い文句を携え、総務省でテレワークの旗を振っていた行政評価局の箕浦課長に会った。まさしくエポックメーキングな出会いでした。

――当時、箕浦さんは総務省でオフィス改革を中心とする働き方改革に取り組まれていましたが、そもそも働き方の問題とかかわりを持つようになったのはいつからですか。

拡大箕浦龍一(撮影・吉田貴文)
箕浦 総務省で研究を始めたのは今から10年以上前かな。電子政府を担当する部署に配属され、局長から「電子政府担当なので、ITで仕事のやり方を変える工夫を」と言われたのがきっかけです。テレワークやフリーアドレスなど民間の取り組みを参考に、役所のオフィス改革について研究しましたが、幹部が実践までは踏み切れなかった。「研究しっぱなし」という“役所あるある”でいったんは終わりました。

 ところが数年後、大臣政務官から「研究しているのなら、自分の部署から実践を」という指示がきて、一局丸ごとオフィス改革をした。ペーパーレスを進め、固定電話をなくし、モバイルやパソコンを携帯して会議をするようになると、自分の机がないと仕事ができないというのは思い込みだったと分かりました。高市早苗、野田聖子両総務大臣がテレワーク推進に前向きだったこともあり、職員の働き方改革を進めていたまさにその時に、鈴木さんが役所にやって来たんです。

軽井沢リゾートテレワーク協会を設立

鈴木 そうでしたね。ただ、箕浦課長からは「軽井沢で仕事っていうのはなじまないな」と言われて……。

――にべもないですね。

箕浦 それまで軽井沢には何度も立ち寄っていましたが、物価が高いこともあり、宿泊地の選択肢にはならなかった。そんなところにワーケーションに行くとは想定しにくいという思いがちょっとしたんですね。

鈴木 気を取り直して、「自然環境と東京からの利便性がいいのは当たり前。なにより重要なのは、圧倒的な人的ネットワークが軽井沢にあること。東京で活躍する凝縮された人たちが集まっていて、いろんなディスカッションができてテレワークには最適な場所です」と説明すると、「確かにそうだな。ちょっと実験やってみるか」と言われました。

箕浦 実際、現地に来させてもらうと、面白い人がけっこう集まっていると分かりました。足を運ぶのにふさわしい「価値」のある場所だと感じましたね。

鈴木 箕浦さんの協力もあり、2018年1月には総務大臣政務官にもご参加いただいて、テレワークをテーマにした「ふるさと車座トーク」を開催。さらに2月から6月にかけて、一般社団法人軽井沢ソーシャルデザイン研究所の主催で、首都圏のワーカーを対象にしたリゾートテレワークの一泊二日の体験会を4回実施しました。

 体験会には長野県の阿部守一知事や小諸市の小泉俊博市長、軽井沢町の藤巻進町長、御代田町の小園拓志町長、日本マイクロソフトの平野拓也社長(当時)も来ていただきました。地元の人も軽井沢が持つ「価値」に気が付き、2018年7月、軽井沢観光協会、軽井沢町商工会を中心に軽井沢リゾートテレワーク協会の設立にこぎつけました。

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筆者

芳野まい

芳野まい(よしの・まい) 東京成徳大学経営学部准教授

東京大学教養学部教養学科フランス科卒。フランス政府給費留学生として渡仏。東京成徳大学経営学部准教授。信州大学社会基盤研究所特任准教授。一般社団法人安藤美術館理事。一般財団法人ベターホーム協会理事。NHKラジオフランス語講座「まいにちフランス語」(「ファッションをひもとき、時を読む」「ガストロノミー・フランセーズ 食を語り、愛を語る」)講師。軽井沢との縁は深く、とくにアペリティフとサロン文化の歴史について研究している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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