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ふじみ野の医師殺害事件、容疑者にとって母親の死は「世界の終わり」だった

赤木智弘 フリーライター

 1月27日に埼玉県ふじみ野市で発生した人質立てこもり・医師殺害事件。

 容疑者の男(66)は、被害者の医師(44)の在宅医療サービスを利用していた。医師は26日に母親(92)の死亡確認をしたが、容疑者は「あす21時に線香をあげに来て欲しい」と要求し、医師ら7人が自宅を訪問した。そこで男は母親の心臓マッサージを要求したという。

 当然、医師らは断ったが、そのやりとり中に容疑者が散弾銃で医師を撃った。その後、男は自宅に立てこもり、その間に医師は死亡してしまったのである。


亡くなった医師鈴木純一さんの在宅療養支援診療所の前で手を合わせる親子=2022年1月30日午後3時15分、埼玉県富士見市亡くなった医師・鈴木純一さんの在宅療養支援診療所の前で手を合わせる親子=2022年1月30日、埼玉県富士見市

 警察の調べに対して容疑者は「母親が死んでしまい、この先いいことがないと思った。自殺しようと思った時に、自分1人ではなく、先生やクリニックの人を殺そうと思った」と自供しているという。

 一見、母の死に心を痛めた息子が突発的に起こした犯行であるかのように思えるが、様々な記事を見るに容疑者はこれまでも、この医師以外の病院や介護関係者などに対して過剰な要求と暴言を繰り返していたことから要注意人物とみられていたようだ。

 今回被害に遭った医師たちはそれでもなんとか治療しようと頑張っていたのであり、まさに「恩を仇で返す」という言葉がぴったりの身勝手な犯行である。

母親は息子の行動をどう感じていたのだろうか

 医療従事者に対する暴言などはよく聞く話である。ただそれは看護師や病院職員に対するものであり、医師が暴言や暴力を受けるという印象は薄い。

 そもそも、医者は自分や家族に対して医療を行う立場にあり、暴言を吐いて医者に恨まれても良いことはないと普通であれば考えるからだろう。

 だからこの容疑者も「アイツよりは俺の方が立場が上だから、威張って当然」という理由で暴言を吐いていたのではないのかもしれない。

 もちろん病気を告知されたショックや、なかなか治らないイライラを募らせて、ついきつい言葉であたるような人は少なくないだろう。しかしそれならば一時的なものだ。今回の容疑者は様々な場所で暴言などを繰り返していたのだ。

 こうした人たちやその家族をも診察しなければならない医療関係者の苦労は察するにあまりある。

Toa55shutterstockToa55/Shutterstock.com

 ふと思ったのだが、母親は息子の行動をどのように感じていたのだろうか。

 容疑者は車椅子に母親を乗せて、病院で「母親を先に診ろ!」といった勝手な要求を繰り返していたという。また自分で求めた薬の処方を医師にたしなめられると激高していたようである。

 車椅子に座り続けるしかない母親にとって、そんな光景はどのように見えていたのだろうか。

 「私のために

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