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伊藤詩織さんに名誉毀損で賠償を命じたのは理不尽で不公平だと思う

一般読者の基準に即しているとは思えない

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は約332万円の支払いを山口氏に命じました。

 最も重要な争点であった性行為における同意の有無に関しては、一審・東京地裁判決と同様に、「山口氏が同意なく性行為に及んだ」と結論付けており、全体的な評価としては納得のいく判決だったと思います。これを受けて、伊藤さんも「勝訴」を表明しています。

 その一方で、山口氏の反訴も一部認め、伊藤さんに55万円の支払いを命じました。報道によると、伊藤さんが著書などで「デートレイプドラッグを入れられたんだと思う」と表現した部分について、「真実と信じる相当の理由もない」として名誉毀損やプライバシー侵害にあたると認定しました。

 私は法律の専門家ではないので、判決の法的妥当性についての反論はできかねますが、被害者である伊藤さんに支払いを命じるのは、「一般読者」の感覚として「むごい仕打ち」であるように思います。

判決後に会見する伊藤詩織氏=2021年11月30日午後2時31分、東京・霞が関20211130東京高裁の判決後に会見する伊藤詩織さん=2022年1月25日

真実が分からなくなった原因は警察にある

 というのも、山口氏が本当にデートレイプドラッグを使用したのか否か、その真実への道が閉ざされたのは、警察が山口氏の逮捕を突如とりやめたため、十分に捜査されなかったからでしょう。

 準強姦の逮捕状が発付され、担当の警部補等はアメリカから帰国する山口氏を逮捕すべく成田空港で待ち構えていたにもかかわらず、上層部からの指示(※当時警視庁刑事部長だった中村格氏が、判断したのは自分だと示唆している)によって、逮捕が直前で取りやめになったと言われています。

 その結果、書類送検後も嫌疑不十分と判断され、山口氏は不起訴になりました。もし、デートレイプドラッグの使用に関しても警察がしっかりと捜査をし尽くしていれば、おそらくその真実は明らかになっていたことでしょう。

 にもかかわらず、この判決は、真実を求めていた伊藤さんに「真実が分からなくなってしまったツケ」を払わせたかのような内容であり、市民感情としては理不尽だという印象を強く受けました。

今後の「#MeToo運動」への悪影響もあるのでは

伊藤詩織さん〓撮影・Hanna Aqvilin伊藤詩織さん=撮影・Hanna Aqvilin
 また、この支払い命令は、「#MeToo運動」に悪影響をもたらす面もあり、今後、性暴力が闇に葬られる場合さえ出てくるのではないかと危惧します。

 というのも、刑事で不起訴となった性暴力事件において、加害者が「(被害者に)真実ではないことを公にされた!」と訴えれば、民事裁判で被害者が名誉毀損になる前例ができてしまったからです。たまたま、伊藤さんのケースは「目的が公益を図ることにある」として、告発自体は名誉毀損ではないとされましたが、他のケースでもそれが認められるとは限りません。

 性被害に遭っても、「警察がちゃんと捜査をしてくれるのか分からないし、不起訴になったら名誉毀損として訴えられるかもしれない……」とリスクを恐れて、告発を手控える被害者がいても不思議ではないでしょう。

名誉毀損を恐れて被害者が語れなくなってしまう

 伊藤さんは以下のように、自身の考えを述べ、実際にドラッグが利用されたケースとの類似性を指摘しました。

・「私は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたんだと思っています」(『週刊新潮』の記事)
・「デートレイプドラッグを入れられた場合に起きる記憶障害や吐き気の症状は、自分の身に起きたことと、驚くほど一致していた」(著書『Black Box』)

 確かに、「デートレイプドラッグを使った」と断定こそしていませんが、もう少し曖昧な表現をしたほうが良かったのかもしれません。ですが、実際、性暴力に限らず自分が受けた被害について断定できかねる部分については、たとえ「真実と信じる相当の理由」が曖昧でも、推測で語らざるを得ないことは少なくないはずです。

 「暴行・脅迫要件」が課されている性暴力ならなおさらです。伊藤さんの場合も、上のように記述しなかったならば、「酩酊状態」になった理由が曖昧になり、「なぜ抵抗しなかったのか!」と伊藤さんを責めるセカンドレイプがさらに苛烈になっていたかもしれません。

 にもかかわらず、その一部が名誉毀損となるのであれば、

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