勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
一般読者の基準に即しているとは思えない
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之氏に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は約332万円の支払いを山口氏に命じました。
最も重要な争点であった性行為における同意の有無に関しては、一審・東京地裁判決と同様に、「山口氏が同意なく性行為に及んだ」と結論付けており、全体的な評価としては納得のいく判決だったと思います。これを受けて、伊藤さんも「勝訴」を表明しています。
その一方で、山口氏の反訴も一部認め、伊藤さんに55万円の支払いを命じました。報道によると、伊藤さんが著書などで「デートレイプドラッグを入れられたんだと思う」と表現した部分について、「真実と信じる相当の理由もない」として名誉毀損やプライバシー侵害にあたると認定しました。
私は法律の専門家ではないので、判決の法的妥当性についての反論はできかねますが、被害者である伊藤さんに支払いを命じるのは、「一般読者」の感覚として「むごい仕打ち」であるように思います。
というのも、山口氏が本当にデートレイプドラッグを使用したのか否か、その真実への道が閉ざされたのは、警察が山口氏の逮捕を突如とりやめたため、十分に捜査されなかったからでしょう。
準強姦の逮捕状が発付され、担当の警部補等はアメリカから帰国する山口氏を逮捕すべく成田空港で待ち構えていたにもかかわらず、上層部からの指示(※当時警視庁刑事部長だった中村格氏が、判断したのは自分だと示唆している)によって、逮捕が直前で取りやめになったと言われています。
その結果、書類送検後も嫌疑不十分と判断され、山口氏は不起訴になりました。もし、デートレイプドラッグの使用に関しても警察がしっかりと捜査をし尽くしていれば、おそらくその真実は明らかになっていたことでしょう。
にもかかわらず、この判決は、真実を求めていた伊藤さんに「真実が分からなくなってしまったツケ」を払わせたかのような内容であり、市民感情としては理不尽だという印象を強く受けました。
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