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アイスホッケー「スマイルジャパン」の五輪快進撃が女子競技にもたらすインパクト

「なでしこ」から始まった熱いバトンのリレー/注目集め支援拡大、強化環境も向上

増島みどり スポーツライター

北京五輪会場のリンクで記念撮影する女子アイスホッケー日本代表「スマイルジャパン」の選手たち=2022年2月1日
 北京五輪開会式前夜の3日、日本の女性アスリートに力を与える女子サッカーと同アイスホッケー2つのチーム競技が、違う場所、違う時間に歴史の分岐点に立っていた。「スウェーデン」という共通する強豪の存在もまた、不思議な縁だったのかもしれない。

三度目の正直でスウェーデン撃破。日本選手団鼓舞するスマイル

 98年、女子アイスホッケーが五輪に採用された長野五輪に、日本は開催国として出場したものの5戦全敗、6カ国中最下位に終わった。以後、3大会にも渡って五輪予選を突破できないどん底の時期が続く。14年ソチ五輪を前に、初めて自力で予選を突破。この時、選手、関係者が「目標であり憧れ」と追いかけた同じチーム競技のサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のように、代表は「スマイルジャパン」と、命名された。

アイスホッケー女子日本代表の愛称「スマイルジャパン」の発表会見。ロゴマークはスティックとパックをあしらったデザインだ=2013年3月28日
 念願の看板を掲げて復帰したソチ五輪は全敗に終わる。しかし、生活と競技の両立を懸命にこなす彼女たちの姿が多く取り上げられ、関心は高まって行く。遠征や合宿のためになかなか就職ができず、アルバイトでつないでいた環境に、企業が採用を申し出るなど支援が集まり始めたのだ。

 環境の変化を追い風に、18年平昌五輪に連続出場を果たすと、韓国・北朝鮮の合同チームから五輪初勝利(8カ国中6位)。順位決定戦では、06年トリノ五輪で銀メダルの実績を持つスウェーデンを破って五輪2勝目をあげて世界への足がかりを掴んだ。

 そして世界ランキングも6位まで上げて迎えた今大会、ソチ、平昌とも初戦で苦杯をなめたスウェーデンとの対戦に臨んだ。先制点を奪うと積極的な攻撃を続け、過去、0-1、1-2と2大会連続で初戦に僅差で敗れた相手を圧倒。開会式前の勝利は、日本選手団の快進撃に勢いを与えた。

北京五輪初戦のスウェーデン戦でゴールを決めて喜ぶ米山知奈(中央)=2022年2月3日
北京五輪のスウェーデン戦で相手と競り合う志賀紅音(16)

アテネ五輪でスウェーデン破り牽引したなでしこは「陥落」

 女子サッカーは04年アテネ五輪前、2大会ぶりの五輪復帰に期待を込めて「なでしこジャパン」と命名された。

 アテネでは開会式より先に競技が始まり、今回の「スマイル」同様、スウェーデンと開幕戦で対戦。当時、大方の予想を覆してメダル候補を破り、日本選手団では当時過去最多のメダル数(37個)獲得の原動力になったと、称賛された。そこから世界への階段を上がり始めたといえる。

アテネ五輪で強豪スウェーデンを破り観客席の声援に応えるなでしこジャパンの選手たち=2004年8月11日、パンテサリコ競技場
 2月3日夜、インドで行われた「AFC(アジアサッカー連盟)女子アジアカップ2022インド」準決勝で中国にPK戦の末敗れてベスト4で敗退。14年、18年と保持してきた「アジア女王」の地位から陥落した。

 W杯では、11年のドイツ大会優勝に続き、15年のカナダ大会は準優勝でつないだが、19年フランス大会で16強にとどまって強豪国から離されてしまう。12年ロンドン五輪で獲得したメダル(銀)の奪還にかけた昨年の東京五輪も8強に終わり、これで、18年以降の国際主要大会で結果を出せず、全てが過去の栄光となってしまった。

東京五輪でスウェーデンに敗れ8強に終わったなでしこジャパン=2021年7月30日、JFA公式サイトから

北京五輪1次リーグのデンマーク戦で決まった床亜矢可のゴール=2022年2月5日

なでしこ・スマイル・アカツキ5――広がるポジティブな効果

 スマイルの快進撃は、日本の女子スポーツ全体にとってもポジティブなものだ。

 「なでしこ」は、こうした愛称が女子チーム競技にとって選手のモチベーションでも、注目度でも、マーケティングでも効果をもたらす実証事例となった。11年、東日本大震災で東北が甚大な被害に見舞われる状況下で果たした優勝後、国民栄誉賞も受賞し、当時、CM総合研究所などが試算した経済波及効果は実に1兆円に上るとも指摘された。

 未知だった女子チームの潜在能力が示された効果によって、多くの女子チーム競技の強化、環境整備にも変化が生れる。

東京五輪で銀メダルを獲得し、喜ぶバスケットボール女子日本代表の選手たち=2021年8月8日、さいたまスーパーアリーナ
 昨夏の東京五輪では、女子バスケットボールの女子代表「AKATSUKI FIVE」(アカツキファイブ=男女とも同名)が、絶対的な女王、アメリカに堂々立ち向かい銀メダルを獲得。高い関心を集めた熱気のまま、9月にはFIBA女子アジアカップで史上初の5連覇を達成し、昨年10月、最高の流れで女子の国内リーグ「Wリーグ」が開幕した。

バスケットボール女子日本リーグの公式スポンサーやパートナーの企業=WJBL公式サイトから
 10月22、23日に東京大田区で行われた「羽田ヴィッキーズ」対「富士通レッドウェーブ」の一戦は、2日間ともチケットが完売し、リーグスポンサーも増えた。日本バスケットボール協会・三屋裕子会長(63)は「この結果を協会がどうつなぐか、私たちの真価も問われると、改めて身を引き締めたい。ものすごく熱いバトンをもらった」と、将来を見据える。

ひたむきさに好感、スマイル活躍でサーバーダウンも

 女子のチーム競技をスポンサードする価値について、メーカーの担当者は「日本の女性チームのひたむきさは、スポーツを普段あまり観ない方々にも分かりやすく魅力を伝えてくれる」と指摘する。例えば男子のユニホームが結果と連動して売り上げが伸びるのに対し、女子は爆発的ではないものの、チーム全体に対する良いイメージが浸透している分、「じわりと販売率が伸びる特徴がある」と分析する。

練習前のリンクで記念撮影するスマイルジャパンの選手たち=2022年2月1日
 スマイルは、スウェーデンに勝利後、デンマークを下し、アメリカ、カナダから国籍変更をした選手10人を擁する中国には1-1からサドンデスの延長戦となり、ペナルティーショット・シュートアウトの末敗退。しかし、延長戦で与えられる勝ち点1を獲得し、五輪で初の決勝トーナメント進出を果たすと、早速、その波及効果が表れたようだ。

日本アイスホッケー連盟のサーバーダウンについてのお詫び画面
 日本アイスホッケー連盟の公式ホームページが、急激なアクセス集中で一時ダウンしたという。連盟は、「国内だけでなく北米など海外からのアクセスが大幅に増えたため、サーバーがダウンするに至ったとのことです」と「お詫び」を掲載し、情報発信をツイッターに変更するなど、嬉しい悲鳴をあげる。

北京五輪でチェコを下し、1次リーグの1位突破を決め喜ぶスマイルジャパンの選手たち=2022年2月8日

笑わないスマイル―強い覚悟でグループリーグ首位突破

 国際アイスホッケー連盟の試合データによれば、スウェーデン戦で日本が放ったシュートは実に40本(スウェーデンは27本)。過去と比較しても、攻撃力アップは明らかだ。

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