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虐待はどうして生じるのか?~背景にあるのは「助けて」と言えない社会

マルトリートメントを生む社会構造を変え、子どもの尊厳を尊重する社会につなげるには

小澤いぶき 児童精神科医、認定NPO法人PIECES 代表理事/Reframe Lab

 社会課題に向き合う。どうしたら解決できるのかをともに考え、行動する――。そのきっかけとなる論考を、「論座」では積極的に「公開」しています。今回のテーマは児童虐待。認定NPO法人PIECES代表の小澤いぶきさんが、虐待が生じる“メカニズム”と、それとどう向き合えばいいか考えるヒントを提案します。(論座編集部)

拡大miko2/shutterstock.com

「虐待予防」とメディア

 メディアに児童虐待のニュースが出るたびに、養育者や児童相談所(児相)への強い批判が上がることがあります。報道がセンセーショナルになることもあります。でも、これは虐待予防につながるのでしょうか?

 CDC(Centers for Disease Control and Prevention=米疾病対策センター)のガイドラインの中には、以下のような提案(仮訳)がなされています。(参照
 児童虐待やネグレクトに関する報道は、しばしば個々の虐待事例の衝撃的で残酷な結果に焦点が当てられ、「悪い子育て」や「児童保護機関の対応が失敗したこと」が児童虐待の主な原因であるという誤解を助長するような視点となっています。

 これに対して、報道機関は、公衆衛生の研究者、実践者、様々な専門家と協力することによって、子どもの虐待について、問題だけでなく、可能な解決策も伝えるニュース記事を作成することができます。

・児童虐待やネグレクトに影響を与えている要因を調べ、子どもや家族、地域への影響を説明する。

・事件のみに焦点化した物語に言及するのではなく、より広い文脈から検討し予防の機会を強調することで、社会の児童虐待やネグレクトに対する視野を広げることが可能になる。

・児童虐待及びネグレクトに影響を与えているコミュニティ及び社会的要因を調べる。

・保護者の子どもへの安全で安定した養育関係、環境の提供の困難さに影響を与えている家族のストレス要因を調べる。

・地方、州及び国のChild death review teamのデータから、推奨されている予防戦略を強調する。

・児童虐待防止団体と協力して、メディアを見る人たちがマルトリートメントの影響を知り、予防的なアプローチがいかに役に立つかを理解できるような記事の伝え方を見つける。

・問題への意識を高めるために、州や国の児童虐待率やマルトリートメントの一般的な状況をニュースの記事で伝える。

・安全で安定した養育環境に役立つような(例えば)プログラムやストラテジー情報も追加していく。

◇英文(一部)
Often, news coverage about child abuse and neglect focuses on the shocking and brutal results of individual cases of abuse—a perspective that can reinforce misperceptions that “bad parenting” or a failure of child protective services is the main cause of child maltreatment.1,2 Journalists can help audiences understand that child abuse and neglect is not simply the result of individual failures or family dynamics, but a public health issue that affects communities and society in significant ways. By working with prevention researchers, practitioners, and other experts, journalists can craft news stories about child maltreatment that convey not only the problem but also possible solutions.

Preventing child maltreatment requires individuals and communities to work together to insure that no child is ever abused or neglected. Stories that highlight steps anyone can take to provide safe, stable, and nurturing relationships and environments for children will be more helpful for prevention than focusing on the response after violence has occurred.

 SNSが普及した今は、私たち一人一人が、メディアの発信の担い手にも受け取り手にもなり得ます。新聞やテレビといったオールドメディアだけではなく、今や誰もがメディアになりうる時代です。メディアの役割はますます重要になっています。

 本稿では、「虐待予防」という観点から、「助けて」という声を出しづらい社会や、「助けて」いう声が届きづらい社会が生じる理由、私たち一人一人が知っておくべきことについて考えてみたいと思います。

“大きな主語”で語られる物語が陥る落とし穴

 虐待の予防がうまくいっている地域について検証する。なぜ児童虐待が起こったかを丁寧に検証する。そうした検証を元に仕組みとして何を改善すると良いかを検証する。こうした検証は、いずれもとても大事で必要なことです。

 ですが、三つ目の再発予防に向けた仕組みの改善を目的とする検証において、例えば養育者やどこかの機関にすべての責任があるかのように非難すれば、それは虐待を予防するという本来の目的から、大きくズレてしまいます。

 「母親は」「児童相談所は」といった“大きな主語”によって語られる物語は、時として背景にある、「働き方」や「ジェンダーギャップ」といった人権の問題や複雑な社会構造を見えにくくすることがあります。それは、子どもたちの権利の問題に目を向けづらくする一因にもなります。

 そんな中、私たちはどうすれば、「マルトリートメント」(大人の子どもに対する不適切な養育や関わり)を生む社会のシステムにアプローチできるのでしょうか。そして、子どもの権利と尊厳を尊重し合える社会につなげられるのでしょうか。

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筆者

小澤いぶき

小澤いぶき(おざわ・いぶき) 児童精神科医、認定NPO法人PIECES 代表理事/Reframe Lab

精神科医を経て、児童精神科医として複数の病院で勤務。トラウマ臨床、虐待臨床、発達障害臨床を専門として臨床に携わり、多数の自治体のアドバイザーを務める。人の想像力により、一人ひとりの尊厳が尊重される寛容な世界を目指し、認定NPO法人PIECESを運営している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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