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上映禁止の請求、なぜ東京地裁は棄却したのか――慰安婦問題の映画「主戦場」

「論争」で構成されたドキュメンタリー、公開後に新たな「論争」

北野隆一 朝日新聞編集委員

裁判が映画祭に影響、上映がいったん中止に

 提訴は映画の上映にも影響を及ぼした。

 「主戦場」は2019年秋、川崎市の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で上映作品に選ばれた。NPO法人が主催して市民やボランティアが運営し、川崎市や市教委が共催。新百合ケ丘駅近くの「川崎市アートセンター」で開かれる市民映画祭だ。ところが市から主催者に「裁判になっているようなものを上映するのはどうか」と懸念が示されたため、上映がいったん中止された。

拡大「しんゆり映画祭」主催者や映画監督らが「主戦場」の上映中止について議論した公開討論会=2019年10月30日、川崎市麻生区

映画監督やファンの抗議で復活上映

 上映中止が報じられると、映画監督の白石和彌氏や是枝裕和氏ら映画関係者、映画ファンから声があがり、「公権力による検閲、介入だ」「表現する側の自主規制や事前検閲で表現の自由が奪われる」などと抗議が相次いだ。上映中止をめぐる公開授業や討論会が開かれた結果、主催者は中止を撤回し、映画祭最終日に復活上映が決まった。

 これに対し原告らは、川崎市役所を訪れて上映を認めないよう市に要請。復活上映がされた当日には藤岡氏が映画祭会場を訪れ、「出演者として舞台あいさつに参加したい」と主張する場面もあった。

拡大記者会見で「主戦場」の上映中止決定を批判する白石和彌監督(左)と井上淳一さん=2019年10月29日、東京都港区
拡大「しんゆり映画祭」で復活上映が決まった「主戦場」の整理券を受け取るため、観覧希望者が列を作った=2019年11月4日、川崎市麻生区、筆者撮影

法廷での主張――証拠や経緯と矛盾も

 提訴後、口頭弁論が2019年9月と11月に2回開かれた後は、コロナ禍もあって非公開の弁論準備手続きが続いた。2021年秋、2年ぶりに公開の法廷が開かれ、9月9日に原告本人尋問、16日に被告本人尋問が行われた。

自分の発言の扱い方を非難 × 「訂正の必要はない」とも語る

 尋問では原告の藤木氏が、映画のなかで「フェミニズムを始めたのは不細工な人たちなんですよ。要するに誰にも相手されないような女性。心も汚い。見た目も汚い」と語っている箇所についてのやりとりがあった。

 原告側弁護士の質問に対し藤木氏は「極端なフェミニストに対して話したのであって、あそこは(私の発言が)切り取られているので、インタビュー全部(の映像)を出せば意図が伝わると思います」と説明。一方、被告側弁護士から「記者会見でこの発言について、あなたは『訂正の必要はない』と述べたことはありませんか」と聞かれ、藤木氏は「あります」と答えた。

英語で取材を受けた動画を確認 × 「全て日本語だった」と主張

 藤岡氏は、2016年に取材を受けた際のやりとりをめぐって、デザキ氏の陳述書に「(一緒に来た日本人女子学生に)通訳してもらいながら、藤岡氏と話した」などと書かれていることについて原告側弁護士に聞かれ、「すべてウソです。デザキ氏も英語で話したことは一度もありません。すべて日本語で。日本人であると100%思っていました」と主張した。

 これに対し被告側弁護士は、藤岡氏のインタビュー動画の一部を法廷で再生。デザキ氏が英語で話していることを確認したうえで、「あなたが言ったことは事実とは違うんじゃないですか」と指摘し、「デザキさんが英語で話して、それを(女子学生が)通訳したんじゃないんですか」とただした。藤岡氏は「いや、質問したのは一貫してデザキ氏と記憶しています。私に向かって英語で質問をしたことはありません」と答えた。

原告が被告に直接質問、自らの歴史認識をぶつける

 民事訴訟での尋問は通常、原告や被告の代理人弁護士が質問することがほとんどだ。しかし今回の訴訟では、原告の藤岡氏や藤木氏が、被告のデザキ氏らに対して弁護士を介さず直接質問する場面もあった。

 藤岡氏は、映画で韓国人元慰安婦の李容洙(イヨンス)さんが登場する場面を示し、「李容洙は慰安婦ではなかったという説があるのはご存じですか」などと質問した。デザキ氏は英語で「いえ、知りません。私は歴史の専門家に確認しなくちゃなりません。あなたも歴史の専門家ではありません」と答えている。

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筆者

北野隆一

北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員

1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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