2022年02月17日
衝撃的な実態が明らかになった。
味噌汁の具としてはもちろん、酒蒸しやバター焼き、炊き込みご飯にボンゴレなど、日本人が親しんでいる貝類の代表格「あさり」。そんなどこのスーパーでも売っている熊本県産あさりの大半が、外国産であるという疑惑が出ている。
農林水産省による「広域小売店におけるあさりの産地表示の実態に関する調査結果について」という報告書によると、令和2(2020)年、1年間の熊本県産あさりの漁獲量は21トンであったのに対し、調査した令和3(2021)年10月から12月までの3カ月間の熊本県産の推計販売数量は2485トンであった。さらに言えば、令和2年の全国の国産あさりの漁獲量は4400トンであり、熊本県産の3カ月で2485トンという数字は、どう考えてもつじつまが合わない。
そこであさりのDNAを分析したところ、熊本県産として販売されていた31点のうち、実に30点に外国産が混入している可能性が高いという結果となった。「熊本県産あさりのほとんどが外国産」という、驚くべき実態が明らかになったのである。量的に見れば「熊本県産に外国産が混入」ではなく「外国産に熊本県産が混入」と言っても差し支えないレベルの話だ。
この問題は名古屋に本社を置くCBCテレビが2019年6月のドキュメンタリー番組で取り上げた事で知られるようになった。
この後、農林水産省が調査し、その結果を受けて熊本県の蒲島郁夫知事は「水俣病は初動の遅れが被害を広げた」「食品の問題は早く手を打たないと手遅れになる」という強いメッセージを発し、2月8日から熊本県産あさりの出荷停止に踏み切った。「熊本県産」に毒性があるわけではないが、それでも県にとっても汚点である「水俣病」の名前を出さざるを得ないほどに大きな問題として認識したようだ。
外国産あさりを買い付けて、日本国内で育てれば「国産」と名乗ることはできる。
しかしそれには「日本国内での生育期間が外国での生育期間を超えること」が必須条件である。だが実態は砂浜に撒いて数日から1週間程度の蓄養で収穫、出荷を行っていたという。
出荷に適したサイズにするまでの育成期間は1年以上。国内で数週間育てただけではとても国産と名乗ることができないため、産地偽装と指摘されたのである。
こうした不正が横行するようになった原因は、その1つに熊本でのあさりの不漁が考えられる。
熊本県産あさりの漁獲量は、1977年には6万5732トンで全国シェア40%と日本一を誇っていた。だが、2008年に6000トン程度あったのが翌年に2000トンを切り、2013年以降は1000トン以下のまま回復していない。自然を相手にする業種である以上、不漁という問題は避けられないが、熊本県産のあさりはもはや壊滅的な状況であり、今後の収穫量増加は見込めないと考えてもやむを得ないだろう。
しかしあさりを採って出荷することで生計を立てている会社は「不漁だから仕方ない。来年からは別の業種にしよう」というわけにはいかない。これまでの設備を新しいものに変えるのにも莫大なお金がかかる。会社を守り、従業員を守るためには是が非でも「熊本県産」あさりを出荷し続けなければならなかったのではないか。
個人が転職をするのと違い、会社がこれまでやってきた業態を転換するのは大変だ。そこでなんとか仕事を続けようとした結果が産地偽装なのだろう。
だが、そんなことは企業の理屈だ。正直に中国産や韓国産として売ればよかったのではないか、と思う人もいるかも知れない。
しかし
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください