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「市民メディア」ブームはなぜ終わったのか~激化する報道の競争市場で生き残る媒体は〈連載第1回〉

PJニュース編集長だった私の失敗の総括

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

外部環境からの経営分析を

 これまでの国内のマス・メディアに関する経営学的な研究は非常に限定的である。そのうち、個別のメディア企業、あるいは業界全体を対象にして、経営状態の分析についてはその内部環境に焦点を当てたものが多かった。

 例えば、中国国内の市民ディア的な民間新聞社の経営について財務諸表分析を実施したもの(鄭・諸泉, 2011)や、新聞社の業界団体である日本新聞協会による毎年の「新聞社の経営動向」という統計報告(日本新聞協会, 2021)などがある。

 ただし、個別企業あるいは業界全体の経営状況は内部環境と共に外部環境にも大きな影響を受ける。例えば、昨今の国内マス・メディア業界の凋落の原因は、企業あるいは業界の内部的な不合理性や非効率性というよりも、むしろ情報通信(IT)革命と共に、経済と情報のグローバル化といった外部環境のドラスティックな変化によるものである。つまり、業界を取り巻く外部環境を対象として、それを微分して分析する視座がこれからのメディアの経営分析研究には求められよう。

報道ニュース供給量が需要量を上回ると仮定すると……

 そこで本稿では分析のフレームワークとして、個別企業とその業界の外部環境に視座を置いた競争戦略論のファイブ・フォース分析を用いる。これは米国ハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授が提唱した経営分析の手法として知られる(Porter, 1985=1995)。この理論を当てはめながら、ここで本稿の分析の枠組みの概略を示したい。

 分析の対象としてのPJニュースは弱小の市民メディアだが、時事問題を扱う報道ニュースを扱っていた。これは、新聞社・通信社の報道記事やラジオ・テレビ局のニュース番組といった報道ニュースを生業とする報道メディア業界の中での企業間競争を強いられることを意味する。

取材中のPJニュース「市民記者」拡大取材中のPJニュース「市民記者」

 つまり、この業界内では市民メディアを含め各報道メディアが「報道ニュース」という財市場の中で競争を繰り広げる。この競争環境はこの業界を取り巻く要因によって決定される。本稿では「報道メディア業界」の経営状態を左右する利害関係者との関係性に焦点を当てて市民メディアPJニュースの分析を進めたい。

 この市場では報道ニュースという財の供給量が需要量を上回っている状態であり、しかも需要者の間でこの財がコモディティ(差別化の無い一般的な商品)という共有認識が拡がっていると仮定する。この場合には、報道ニュース市場は完全競争状態となる。例えば、国内では官庁や企業が公表する報道資料をもとにした横並びの記事が溢れ、しかもそれを供給する新聞社の生産設備である印刷機・輪転機の稼働率が低い状態にあるとする。これは、報道ニュース市場が実質的な供給過剰な状態にある完全競争市場だと考えられる。

 この環境下では、各報道メディアは報道ニュースの価格を限界費用と等しくすることが、利潤最大化の条件となる。ただし、この状態では各報道メディアは超過利潤を上げることは不可能である。さらには、需要者の間で「報道ニュースは無料」という考え方がデフォルトの共有認識となると、この市場自体が崩壊する可能性が高まる。

 これらの状態から超過利潤を得るために、各報道メディアは差別化戦略などを駆使して、業界内で不完全競争的なポジションを確保することが求められる。あるいは、業界全体でこの財市場をカルテルやトラストなどを人為的な障壁を作り出して不完全競争市場化することも考えられよう。

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筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科社会情報学専攻修士課程修了、同大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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