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ジャンプスーツ失格問題の背景――国家機密レベルの競争、問われた日本の対処力

日本は苦渋の歴史を活かせたか。メダル獲得と同時に求められる実力

増島みどり スポーツライター

拡大北京五輪のノルディックスキー・ジャンプ混合団体で、スーツ規定違反で失格となった高梨沙羅の1本目のジャンプ=2022年2月7日

新種目で女子有力5選手失格、北京五輪を象徴する汚点

 史上初めて夏(08年)と冬を開催した北京五輪が閉幕する。冬季五輪最多となった日本のメダリストたちの活躍、名場面や感動的なシーンは数えきれない。

 一方、様々な問題に直面した大会でもある。ノルディック・スキー混合団体では、注目される新種目・初代王者を狙った日本の高梨沙羅を含め、ドイツ、オーストリア、ノルウェーは2選手と、女子有力選手5人がジャンプスーツの規定違反で失格。北京五輪を象徴する汚点となってしまった。

 ジャンプの後に抜き打ちで検査が行われるのは選手も承知しているルールだ。スーツだけではなくスキー板、ブーツも検査され、連戦するW杯では、今大会ノーマルヒルで金メダルを獲得した小林陵侑、高梨とも失格している。

競技人口とマーケティング拡大の絶好機に急ブレーキ

 今回の問題点は、FIS(国際スキー連盟)が、W杯や世界選手権とは異なる、4年に一度の五輪で、念願の新種目・男女混合種目をアピールする絶好機になぜ、「見せしめ」のように失格者を出したのかにある。

 北京五輪には7つの新種目が加わり、そのうちジャンプ、スキーのエアリアル、スノボードクロス、ショートトラック4つが、男女混合種目だ。これにより、女子参加比率が冬季五輪最高の45%にまで引き上げられるなど、IOC(国際オリンピック委員会)にとっても目玉となるはずだった。

 ルールはもちろん尊重されるべきだが、女子5人の失格によって初代王者決定戦の競技性は損なわれ、そこから波及する競技人口やマーケティングの拡大といったチャンスに、自分たちで急ブレーキをかけた責任は重い。

拡大スーツ規定違反でジャンプ複合団体を失格になったノルウェーのシリエ・オプセトが2月8日、自身のInstagramへ投稿した画像。投稿には「言葉もない。心から申し訳なく、悲しく、虚しい。オリンピックでの体験を消化するには時間がかかる」と英語で記されていた

ジャンプ勢力図が変化――5種目のメダルを8カ国が分ける激戦

 女子選手を検査するコントローラー(検査員)は女性が務める。FISによれば混合団体ではポーランド人に加え、通常よりも1人増員しフィンランド人が加わっていた。

 日本は「ミズノ」がスーツを提供。国内の開幕戦に合わせて選手個々のサイズを測定し、一人につきシーズンを戦うための十数着を制作する。FISの規定、厚さや通気性をクリアする承認を得て、選手に渡る。シーズン中の運用は、よほどの調整や問題が生じない限りメーカーではなく現場の裁量だ。

スーツ:日本はミズノ、メダル4個のスロベニアはアンダーアーマー

 日本はミズノ、ノルウェーも自国ブランドのスーツを着用。スロベニアはジャンプ5種目のうち、混合団体の初代王者の座と女子ノーマルヒル(NH)で金メダルと銅メダルを獲得し、男子団体でも銀と、もっとも多い4つのメダルを獲得した。着用した「アンダーアーマー」(本社・米国)は、冬季五輪での存在感アピールに成功した。

 ポーランドは、夏の五輪にも進出し市場を拡大する自国ブランド「4F」で男子ノーマルヒルの銅メダルを獲得した。

 メダル獲得国がノルウェー5、ドイツ4、ポーランド2、日本(高梨)の4か国だった18年平昌五輪を思うと、北京で実施された5種目15個のメダルを8カ国(混合団体銀メダルはROC=ロシアオリンピック委員会)で分けた結果は、各国の争いがこれまで以上に激しさを増した証でもあり、今大会の結果は勢力分布図を変えた。

拡大北京五輪のジャンプ混合団体で、スーツ規定違反で失格となったドイツの女子エース、カタリナ・アルトハウスのジャンプ。2日前のノーマルヒル個人では2大会連続の銀メダルを獲得していた。世界選手権では混合団体を3連覇=2022年2月7日

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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