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ジャンプスーツ失格問題の背景――国家機密レベルの競争、問われた日本の対処力

日本は苦渋の歴史を活かせたか。メダル獲得と同時に求められる実力

増島みどり スポーツライター

ステルススーツに搭載される“国家機密”

拡大北京五輪でドイツが使用した「ステルススーツ」。メーカーのロゴマークがない。写真は混合団体で失格となったアルトハウスのジャンプ=2022年2月7日
 今大会でメダルを3つ獲得したドイツ(女子NH銀、男子LH銅、団体銅)、オーストリア(団体金)、ROC(混合団体銀)のスーツは、最高のアピールの場である五輪にもかかわらず、メーカーのロゴマークが五輪で許可されている上半身、下半身の2個所になかった。例えるなら「ステルススーツ」だった。

 実は、ジャンプスーツの素材を提供しているのは、世界でドイツとスイスのメーカーわずか2社しかない。各国とも、自動車業界の「OEM供給」に似た構造で、素材は同じものを使用する。

 かつて、素材から含めて、メーカー同士のし烈な競争で提供されたスーツも大きく様変わりした。

メーカー単独の開発に限界、国が総力あげ取り組む潮流

 「1着10万円以上の高価なスーツに市場はなく、しかも年々進化する選手の技術力、目まぐるしく変わるルールに対応するコストに見合う収益は全くない。メーカーが続ける限界がある」と、ジャンプスーツから撤退した海外メーカーの関係者は説明する。

 メーカー単体による開発、製造が難しくなった現在、各国とも、国が総力あげて資金を投じ、実験、開発で違いを生み出す潮流となった。各国のスポーツ科学機関が、国家予算をバックに風洞実験などを実施。いわば「国家機密」ともいえる独自のデータがスーツに搭載されている。

 同じメーカーのウエアを何か国かで契約するのではなく、メダルを獲得した8カ国は全てメーカーが異なり、ドイツ、オーストリア、ROCはメーカーではなく自分たちで作った「ステルススーツ」だった。国同士の激しい競争を示すひとつの現象といえる。

拡大北京五輪のジャンプ混合団体で、1本目のジャンプがスーツ規定違反のため失格となった後、2本目に臨む高梨沙羅=2022年2月7日

競争激化でスーツの厳格チェック迫られたFIS

 高梨の失格を受けて、7日には、ジャンプチームの横川朝治ヘッドコーチが取材に応じこう答えている。コメントには、日本チームとして最大限の警戒を怠った後悔と同時に、激化する競争の背景がうかがえる。

拡大複合団体の2本目のジャンプを終え涙ぐむ高梨沙羅=2022年2月7日
 「ルール違反はルール違反ですので。それは仕方のないことですが、それだけ世界中がもう、ぎりぎり狙っているのは事実ですし。そうしないと、それだけ勝てない世界になってきている。失格になったどこのチームも多分、同じ状況だと思います。それも北京の標高が高い分、スーツの精度が飛距離にずっと大きな影響を与えてきていたので、どこのチームも攻めて、攻めて……(以下省略)」(8日付け日刊スポーツから)。

 FISは、こうした状況下で、スーツの規定違反を厳格にチェックする必要性を突きつけられ、を取った。失格者は、スーツに限らず、ブーツやスキー板でも出ている。4年に1度の舞台で、混合団体に出場した女子選手20人中4分の1を失格とする強引な手段を取ったFISの運営、体質も問われる。

国際的な不名誉を挽回できるのか

 FISによると失格した各国から正式な抗議はないという。しかし連盟内に生まれた不信感や、何より五輪の大舞台で大量の失格者を出した国際的な不名誉を挽回できるのか。正式な抗議があろうがなかろうが、改善策は早急に求められる。

拡大北京五輪開会式ではスキージャンプを模した電飾が登場した=2022年2月4日、国家体育場

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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