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2つの快挙──佐井大紀『日の丸』と須賀川拓「ボーン・上田賞」

[2月12日~2月18日]『日の丸』、毎日映画コンクール、駐日ロシア大使……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

2月12日(土) 『報道特集』のオンエア日。国や行政のコロナ対策の後手後手ぶり。とりわけ大阪府のコロナ感染者の死者数が多いのはなぜか、にスポットを当てた特集が前半だった。吉村洋文大阪府知事の記者会見。そこでの僕とのやりとりもごく一部だが紹介されていた。

 経済効率ばかりを考えて病床を削減するという、かねての国の方針は、今のコロナの時代にあっては当然見直されなければならないだろう。このことは火をみるより明らかではないか。大阪のコロナ在宅療養者の訪問医療を行っている民間医療者たちのチームの活動の密着取材をみていて、危機の現況がよく伝わってきた。

 後半は、学校の教師たちの生存さえ脅かす長時間勤務、ブラック勤務についての特集。とにかく学校の先生たちが忙しすぎる。心身の状態に支障をきたすほどの忙しさでは教育どころではない。大きな社会問題である。プレビューでVTRをみながら、僕の心をよぎったのは、これは学校の教師たちだけの問題ではないな、という思いだった。早い話、マスメディア業界も同様のことがあるのではないか。電通の高橋まつりさんの自死や、NHKの佐戸未和さんの過労死のケースを思い出さずにはいられない。

 さらに、今の保健所の状態はどうだ。このような状態を防ぐには、人を増やすか、仕事を減らすかしかないのだが、成長(=より多く儲ける)をめざして労働を売って対価を得るという今のシステムがそれを妨げる。夜、Uさんと沖縄のメディア状況の話をする。みんな悩んでいる。

2月13日(日) 朝、ものすごく早く目を覚ましたので、NHKのEテレ『こころの時代〜宗教・人生〜』をみたら、何と、あの名著『あいたくてききたくて旅に出る』の小野和子さんを取材しているではないか。何という品位のある方であろうか。あの本を書いた人だものなあ。納得する。「語る人だって、きく人をみますよね」「民話には、深い、生きる智慧が込められています」「土台文化というものがある」など、言葉がきらきらしていた。

NHKのEテレの『こころの時代〜宗教・人生〜』NHKのEテレ『こころの時代〜宗教・人生〜』より=撮影・筆者

 その後、プールへ行き泳ぐ。ストレス解消。前からみたいと思っていた映画が何本かあったので出かけたが、渋谷のユーロスペースに行ってみたのが『麻希のいる世界』。うーん。少女と音楽に関するオタク的な作品に思えた。観客は映画に出演していた男の子の追っかけみたいな若い女の子が多かった。ここに来たのは場違いだったか。正直、向井秀徳の曲以外にあまり魅力を感じなかった。監督と、映画に出ていたその男の子のトークショーが続いてあったが、席が一杯で、どうにも途中で会場を出にくいのだった。そのまま席にとどまっていたが苦痛だった。帰りしなに髪を切る。

 真夜中の1時すぎに、先日の座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルに来てくださった大先輩の坂元良江さんから、見るようにと勧められて『ドキュメンタリー「解放区」 日の丸~それは今なのかもしれない~』をみる。いいぞ! こんな感覚の人がいるんだ、この局に。突然変異ではないか。村木良彦、萩元晴彦、寺山修司らが自由にテレビで実験していた時代。1967年。『日の丸』はその頃の「問題作」としてテレビ史に刻まれている。これを2022年にリメイクするという発想が素晴らしい上に、そのDNAががっつり受け継がれているではないか。嬉しくなってしまった。

 エンディングの制作者の字幕ロールをみていたら、佐井大紀ディレクター、秋山浩之プロデューサーとあるではないか。わははは。なるほど。佐井という人は入社5年目で制作局でドラマとかつくっているらしい。とても健全な報道的センスを感じた。「日の丸の赤は空洞なのかもしれない」。こんなことをテレビで表現するとは、希望だな。

『ドキュメンタリー「解放区」 日の丸~それは今なのかもしれない~』TBS『ドキュメンタリー「解放区」 日の丸~それは今なのかもしれない~』=撮影・筆者
『ドキュメンタリー「解放区」 日の丸~それは今なのかもしれない~』TBS『ドキュメンタリー「解放区」 日の丸~それは今なのかもしれない~』=撮影・筆者

原一男をみるために毎日映画コンクールの表彰式へ

2月14日(月) 11時から神保町で打ち合わせ。その後Pさんとカレーをご一緒する。神保町に来ると大体はカレーを食べる。ウクライナ関連の取材。15時30分からペンクラブの言論表現委員会。夜、四谷。報道の将来を憂う。

2月15日(火) 朝から対東京電力・こども甲状腺がん訴訟の取材。原告一人一人が皆それぞれ異なる事情を抱えている。その後、『報道特集』の定例会議をオンラインで。ウクライナ危機をどう報じるか。

 15時から毎日映画コンクールの表彰式。めぐろパーシモン・ホールに移ってからの表彰式に来たのは初めて。ここに来た目的はひとつ。ドキュメンタリー映画部門のトップに選ばれた『水俣曼荼羅』の原一男さんの姿をみるためである。月並みの映画祭の表彰式は、きらびやかで、コマーシャリズムべったりの傾向が強いのだが、この毎日映画コンクールの場合は、個性があって表彰式にもそれが表れていて好ましい。

 グランプリにあたる日本映画大賞は『ドライブ・マイ・カー』だったが、濱口竜介監督はベルリン国際映画祭に出かけていて欠席、優秀賞の『すばらしき世界』の方が圧倒的に目立っていた。というのも、西川美和監督が出まくっていたし、西川組も勢ぞろいしていたものなあ。『茜色に焼かれる』とか『護られなかった者たちへ』の俳優陣らにも賞が与えられ、毎日映画コンクールの意地みたいなものが感じられた。さらには「岩波ホール」に特別賞が授与されたのは、ある意味で、とても悲しい。閉館が決まってしまった後での受賞。何度でも言うけれど、僕は原一男をみるために会場まで出かけたのだった。

「毎日映画コンクール表彰式」より「毎日映画コンクール」の表彰式。スクリーンは女優主演賞の尾野真千子さん=撮影・筆者
「毎日映画コンクール」の日本映画優秀賞を受賞した『すばらしき世界』の西川美和監督=撮影・筆者
ドキュメンタリー映画賞:『水俣曼荼羅』(原一男監督)
ドキュメンタリー映画賞を受賞した『水俣曼荼羅』の原一男監督=撮影・筆者
特別賞を受賞した岩波ホール・岩波律子さん特別賞を受賞した岩波ホールの岩波律子さん=撮影・筆者

 17時からペンクラブの理事会に途中からオンライン参加。その後、原一男組の夕食会に顔を出す。原さんは、毎日映画コンクールの公式プログラムの非礼さにぷんぷん腹を立てていた。久しぶりに原一男節を堪能する。

原一男さんの会にて原一男さんの会にて
原一男さんの会にて原一男さん(左)と筆者

ボーン・上田賞、須賀川拓記者のすぐれたセンス

2月16日(水) プライベートな緊急用件で富山へ。空港までIさんが迎えに来てくださった。ランチをとりながら腹蔵なく話をする。富山市内はしんしんと雪が降り続いていた。その後、一日中、緊急用件であっという間に時間が過ぎ去っていった。人が生きていくことのしんどさを考える。

 朝、朝刊をみてびっくり。

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