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五輪停戦決議を軍事侵攻の具にしてきたプーチン

日本人は「平和の祭典」という幻想から目を覚ませ

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

停戦決議期間まっただ中の侵攻

 「平和の祭典」を主宰する国際オリンピック委員会(IOC)がウクライナへの軍事侵攻が、スポーツの力による平和と対話の促進を目的とした国連の五輪停戦決議に違反したとしてロシア政府を非難した。また、IOCはロシアと、ウクライナ侵攻の拠点になっているベラルーシで今後開催予定のスポーツ大会を中止または代替地での開催を全ての国際競技連盟(IF)に要請した。

 IOCは「ロシアとベラルーシの両政府による国連五輪休戦決議の違反を考慮し、選手の安全と安心を絶対的に優先させるべき」との声明を出し、国際競技大会でのロシアとベラルーシの国旗掲揚を控えるべきとも主張した。これに対してロシア政府は「IOCの決定に非常に失望した。これらの決定はロシアのアスリートの権利を侵害することになる」と応酬した。

 慣例では国連総会は五輪とパラリンピックの期間中、加盟国に戦争・紛争の停戦を申し合わせる五輪停戦決議を採択する。今回の2022年北京冬季五輪パラリンピック大会についても2021年12月に、この決議を採択した。この決議案はロシアを含む173カ国が共同提案し、中国が国連総会に提出した。だが、中国の人権侵害を懸念して米国、豪州、インド、そして日本のクワッド構成国は加わらなかった。

 この停戦期間は北京冬季五輪開幕1週間前の2022年1月29日から、パラリンピック閉幕1週間後の3月20日までと決められている。ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始したのは2月24日、停戦決議期間のまっただ中だったわけだ。はたして五輪停戦決議は実効性があるのだろうか、五輪は平和の祭典といえるのだろうか。これらについて本稿では論じていきたい。

キエフへの攻撃(2022年2月24日)=Giovanni Cancemi/shutterstock.com拡大キエフへの攻撃(2022年2月24日)=Giovanni Cancemi/shutterstock.com

ロシア、今回で3回目の五輪停戦決議破り

 五輪停戦は紀元前8世紀のギリシャ王による出場選手と大会参加者、観客のために古代オリンピックの安全を約束する停戦協定が起源で、これが後にギリシャの都市国家間の条約となった。これにちなんで、IOCが同様の決まり発案をし、IOC創立百周年にあたる1993年、国連総会で121の加盟国が共同提案する五輪停戦決議を採択した。その後、夏季と冬季の五輪が開催される前に国連総会で決議・採択されてきた。

 ロシアの五輪停戦決議破りは今回で3回目だ。最初が中国で開かれた2008年の北京夏季大会時である。五輪停戦決議に関して、国連の潘基文事務総長は「五輪停戦は守られてはじめて意味があります。私はIOCや国連総会と声を一つにして、この停戦を守るよう、あらゆる戦争当事者に呼びかけたいと思います。短い間でも武器を捨てさせようではありませんか。そして、オリンピック開幕を待たずして、人類の金メダル獲得を決めようではありませんか」と呼びかけた。だが、ロシアは開会式当日、ジョージアに軍事侵攻して南オセチア紛争が勃発した。

 次がロシア自国開催の2014年のソチ冬季大会。同じく潘氏が「無分別な暴力に苦しむすべての人々の気持ちを考えています。その中には、ソチから遠くないボルゴグラードで発生した最近の爆弾テロ事件により、家族を失った人々も含まれています」と声明を出した。当時、冬季五輪開催地のソチ近郊やコーカサス地方周辺での緊張が高まっていた。そしてパラリンピック閉幕直後、ロシアは軍事侵攻を開始し、当時ウクライナ領だったクリミア半島を併合した。

クリミア半島のウクライナ軍施設を固めたロシア軍とみられる兵士たち(2014年3月19日)拡大クリミア半島のウクライナ軍施設を固めたロシア軍とみられる兵士たち(2014年3月19日)

 そして2022年の北京冬季大会だった。これらから、ロシアに対して国連総会の五輪停戦決議など、いかに無力かよく分かる。

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筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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