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プーチン支持者やロシアの締め出しが相次ぐ芸術の世界

カーネギーホールとウィーン・フィルは名指揮者ゲルギエフを拒否

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 2月25日から3日間、カーネギーホールでウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公演が行われた。演目はラフマニノフ、リムスキー=コルサコフ、そして最終日はプロコフィエフとチャイコフスキー。

 世界中の選りすぐりの一流アーティストが招聘されるこのカーネギーコンサートシリーズの中でも、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は人気もチケットの売れ行きも別格。この冬の最大のメインイベントで、筆者も最終日の日曜日マチネのチケットをようやくの思いで手に入れていた。

 ウィーン・フィルは周知の通り、常任指揮者をおいていない。

 今回のカーネギーホールコンサートは、ロシアの名指揮者、マリインスキー劇場の芸術監督であるワレリー・ゲルギエフが指揮棒を振ることになっていた。演目をロシアの巨匠作曲家で揃えたのは、もちろん彼が振る予定だったからだ。

 ところが直前になって、予期せぬ事態が起きた。2月24日に始まった、ロシアのウクライナ軍事侵略である。

ワレリー・ゲルギエフ(C)Alexander Shapunovジャパン・アーツ提供.jpg
拡大ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を解任されたワレリー・ゲルギエフ=ジャパン・アーツ提供 ©Alexander Shapunov

 ゲルギエフは、過去30年にわたってウラジミール・プーチン大統領と親しく交流があり、2012年には選挙の応援活動にも参加した。

 これまでにもプーチン政権のゲイの人々への人権侵害などを理由に、ゲルギエフのコンサートの日はデモ隊がニューヨークやロンドンで劇場を囲んだこともある。その当時はウィーン・フィルもカーネギーホールも、芸術と政治的思想は分離して考えるべきとゲルギエフを擁護してきた。

 だが今回のロシアの一方的な侵略戦争勃発後、ついにゲルギエフを指揮者から解任。またカーネギーホールは初日の25日にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏する予定だったロシアのピアニストで、同じくプーチンを公に支持してきたデニス・マツーエフの出演もキャンセルした。

 それでもウィーン・フィルの公演は予定通り行うため、わずか24時間で指揮者とピアニストの代役を調達するという、離れ業をやってのけたのである。

 その直後にドイツのミュンヘンに拠点を置く大手アーティストエージェンシー、フェルズナーアーティストが、ゲルギエフとの契約を打ち切ったことを発表した。

 ディレクターのマーカス・フェルズナーは、「芸術家は出身国によって断罪されるべきではない」「個人的には、マエストロ・ゲルギエフは現存する世界最高の指揮者だと信じている」とした上で、「全ての芸術には政治が関わっているものの、愛国者であることと、積極的に政治活動に関わっていることは別物」と指摘。これまで声高に現ロシア政府を支持してきた彼が、今回の軍事侵略について沈黙を保っていることは、もはや容認できない、などと綴った声明文を公表した。

 その後、ゲルギエフが首席指揮者を務めていたミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノのスカラ座など、次々と契約の打ち切り、コンサートのキャンセルの発表が相次いだ。いずれも彼がウクライナ侵略に関して、沈黙を保ったままであることが批判されたためだ。

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筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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