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[62]貧困パンデミックの2年、野戦病院となった支援現場から見た現状と課題

#都立公社病院の独法化ではなくコロナ医療の充実をもとめます

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

[Q]住まいのない状態で感染した方への対応は?

住まいのない方で、コロナに感染された方への対応はどうなっているのでしょうか。

民間が綱渡りの対応~行政に宿泊体制求めても改善されぬまま

A 昨年夏の第5波以降、都内の各ホームレス支援団体で、住まいがない状態でコロナ陽性となった方の相談が増えてきています。

 私が共同代表を務めている認定NPO法人ビッグイシュー基金では、ホームレス状態にある生活困窮者への生活や住宅の支援をおこなっていますが、路上生活やネットカフェ生活をされている方の中で、コロナ感染する例も出てきています。

病院受診とPCR確定まで動かぬ役所と保健所、シェルターでしのぐ

 普段はネットカフェで生活をしているTさん(60代男性)のコロナ感染がわかったのは、1月31日でした。ビッグイシュー事務所に来たTさんの声がかすれていることに気づいたスタッフが、事務所に用意してあった抗原検査キットを使って検査を実施したところ、陽性と出たため、新宿区の福祉課に電話して、今後の泊まる場所について相談しました。

 新宿区の福祉課は、まずは病院を受診の上、陽性の判断が出ないと対応できないと回答。スタッフは新宿区保健所にも相談しましたが、そちらでも病院からの発生届が出なければ宿泊療養施設(療養型ホテル)の調整はできないとの回答でした。

 スタッフは区の福祉課と保健所に対し、Tさんは住まいがない状態であるため、PCR検査の結果を待つ期間の宿泊を公的に支援することはできないのかとかけあったのですが、対応できないとの一点張りでした。ネットカフェに戻ってもらうわけにもいかないため、Tさんにはビッグイシュー基金で運営している個室シェルターに当面、宿泊してもらうことになりました。

 受診できる病院はその日のうちに見つかり、PCR検査もできたのですが、陽性の結果が出たのは2日後でした。陽性の結果が出て、ようやく療養型ホテルの調整が始まり、入所できるまでさらに2日かかりました。

拡大新型コロナウイルス感染症の軽症・無症状者向け宿泊療養施設を視察する岸田文雄首相=2021年10月10日
拡大東京都が新たに運用を始めた無症状者向け宿泊療養施設の個人用ブース=2022年1月23日

昨年から繰り返されている問題

 幸い、Tさんは発熱もなく軽症だったのですが、もし民間の支援がなければ、ネットカフェや路上で待機せざるをえない状態に追い込まれていたことになります。支援団体のシェルターも室数が限られているので、空きがない時だったら、対応のしようがありませんでした。

 住まいを失った生活困窮者がコロナ感染を疑われる症状が出た場合の対応については、昨年夏の第5波の時にも同様の問題が生じていて、各支援団体は東京都に対し、すぐに宿泊確保ができる体制を作るように要望していました。

 当時は都も前向きな姿勢を見せていたのですが、結局、改善はされず、残念ながら同じことが繰り返されてしまったことになります。

拡大路上生活を送る人たち=2021年7月、東京都新宿区
拡大路上生活者らにマスクを配る支援団体=2020年4月、東京都豊島区


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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