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アプリで追い詰めるデートDV──相手を縛り付けてしまえる時代に

赤木智弘 フリーライター

 若い世代に「デートDV」の問題を知って欲しいと、宝塚市と神戸市看護大学生が協力して、「知ってよ!宝塚『デートDVを考える』」という動画を作成した。動画はYouTube上の宝塚市広報課のアカウントで見ることができる。

動画「知ってよ!宝塚『デートDVを考える』」の一場面=宝塚市提供動画「知ってよ!宝塚『デートDVを考える』」の一場面=宝塚市提供

 デートDVとは要するに「過剰な束縛」や「愛情につけ込んだ各種強要」のことである。DVというと真っ先に「暴力」が頭に浮かぶが、精神的に相手を追い詰めるような行為もDVである。

 僕としてはデートDVも単純に「DV」という言葉で示していいと思うのだが、わざわざ「デート」という言葉を先に付けるのは、婚姻関係にあるなど「家庭内(Domestic)」ではなく、恋愛関係の段階で相手を支配しようとする暴力的な行為という点を強調するためである。

 動画でデートDVになるかも知れない例に挙げているのが「Zenly(ゼンリー)」というアプリの利用である。

 これはお互いの位置情報をシェアすることができるもので、同じような機能を持つアプリは多い。友達の間で誰がどこにいるかをシェアすることで、近い場所にいる同士で一緒に遊んだり、旅行先でバラバラに自由行動をする際に互いの位置を確認したり、子供の居場所を親がチェックするような使い方が想定されている。

 しかしその一方で、相手の居場所を常に知ることができることから、恋人の管理・監視のためにも使えてしまう。

 アプリを終了したり、居場所を公開しないモードにすれば位置情報を知らせないことができる。だが、確認できなくなった相手から「この時間にどこにいた! 浮気をしているんじゃないのか?」などと責め立てられ、嫌でもアプリを立ち上げ続けなければならない状況に追い込まれてしまう危険もある。

お互いの「信頼や愛情の証」?

みなとみらい駅や日本大通り駅で掲出中のデジタルサイネージ。文言とデザインは大学生ボランティアが発案した=2021年11月10日午後3時23分、横浜市中区デートDV防止を啓発するデジタルサイネージ=2021年11月、横浜市中区

 厄介なのは、こうしたアプリのインストールはお互いが「信頼や愛情の証」であると認識しがちな点である。

 「恋人同士だから、お互いに隠し事はなしね」とか「僕は君のことをずっと見守っているよ」と言葉で言うだけなら微笑ましい。昔ならそうした心意気を示すだけの穏当な言葉だったのだろう。

 しかし文明の利器であるスマホやGPSというテクノロジーが介在することで、「隠し事が不可能」「24時間365日見守り可能」な状態を誰もがとても簡単に作ってしまえる時代となったのである。

 浮気調査のような目的で、こっそり相手のスマホにこうしたアプリをインストールして監視をすれば、刑法168条の2「不正指令電磁的記録作成等」の罪に問われる可能性がある。しかし「信頼や愛情の証」として合意の上でアプリをインストールすれば、24時間365日監視されても、法的には問題がない。

 最初のうちこそ「大事にされている」「見守られている」と思っていても、それが徐々に重荷になり、実は本当に信頼されていないだけだったり、実は監視されているだけだったことにようやく気づくということになりかねないのである。

デートDV はLINEでも

travelarium.phshutterstocktravelarium.ph/Shutterstock.com

 またLINEのような一般的なアプリでもデートDVは行われる。

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