コロナ禍を超え、1万9千人の大会成功。ワールドマラソンメジャーズを牽引
2022年03月12日
一般ランナーが3年ぶりに出場した「東京マラソン2021」が6日、マラソンでは一般ランナーを含めた男・女、車いす男・女の4クラス1万9057人が参加して行われた。「2021」とされているのは、新型コロナウイルスの感染状況が悪化し昨年の3月から10月に延期され、さらに今年の開催となったためで、2022大会は中止になっている。
6日は快晴、気温11.3度、湿度も29%(スタート午前9時)と安定した天候で、場所によっては風が強く吹いたが、それでも出走人数に対して完走は1万8265人。制限時間7時間の完走率が実に95.8%と、東京マラソンのデータによれば、19年の完走率94.3%を上回った。コロナ禍で様々な大会が中止になるなかでも、市民ランナーがコツコツと毎日練習を積んで、晴れの舞台に臨んだ様子を表す数字だろう。
今年になって、男女の世界記録保持者が出場する嬉しいサプライズが発表されたのも、世界的に見てもハイレベルな完走率に好影響をもたらしたのかもしれない。
男子は、昨年の東京五輪で連覇の偉業を果たした2時間1分39秒の世界記録(2018年樹立)を持つエリウド・キプチョゲ(37=ケニア)、女子も19年に2時間14分4秒をマークしたブリジット・コスゲイ(28=ケニア)が出場。キプチョゲ、コスゲイとも日本の国内で行われたレースとして最高記録となる2時間2分40秒、2時間16分2秒と圧倒的な力を見せて優勝を果たした。
ゴール地点となった東京駅丸の内付近で、ゴールを果たした市民ランナーに話を聞くと、「すれ違って、あのスピードを目の当たりにしただけで、もう大感激」(4時間30分ほどでゴールした60歳主婦)、「男女世界記録保持者や日本選手の記録を見て、こんな凄いレースを自分も一緒に走った、って、ボクの記録はさておき、みんなに自慢します」(6時間かかったが完走した30歳会社員)と、実際に感じられた世界の「足音」に興奮冷めやらない様子だった。
日本記録保持者で日本勢男子トップに入った鈴木健吾(富士通、2時間5分28秒=4位)と、東京五輪で8位に入賞した同女子トップの一山麻緒(ワコール、2時間21分2秒=6位)は昨年結婚し、今大会は夫婦で走る初のマラソンでもあった。
2人の合計タイムは4時間26分30秒と、「夫婦同一マラソン合計タイム」のギネス記録だった4時間27分5秒を更新。一味違った「世界記録」の達成に、一山は「嬉しかったです」と、短いコメントではにかんだ。
それぞれのマラソンの「レースディレクター」は、招待選手の選出から交渉、レース当日、ターゲットとするタイム、それを可能にするためのペースメーカーの構成やペース配分と様々な任務にあたる。今年はコースの一部を変更して、スタートとゴールの高低差を30メートルほどとほぼフラットにし、直線を伸ばすなど高速化を実現した。
東京の早野忠昭レースディレクターは、「かねてからグローバルスタンダードを掲げ、世界トップのレースを国内で実現しようとやってきた。今年、男女世界記録保持者が東京に参加し、大会記録を更新できたことは、エリートにも、一般のランナーの皆さんにも、グローバルスタンダードを提供できたという思い。とても嬉しい」とレース後、手応えを話した。
18年のベルリンでキプチョゲが世界記録2時間1分39秒をマーク。今大会のキプチョゲのタイムは、ベルリン、ロンドンの大会記録2時間2分37秒に次ぐ好記録で、従来の東京の大会記録を1分18秒も更新するものだった。
女子のコスゲイの優勝タイムも同じく、19年、自身がマークしたシカゴでの世界記録2時間14分04秒、ロンドン大会記録2時間15分25秒に続くもので、東京の大会記録を更新。東京で男子2分台、女子16分台と、22年最新の好記録がマークされた実績と勢いは、今年続く5大会に大きな影響を与える。
選手に同行している代理人に聞くと、レース選定の条件はまず記録が出るコースかどうか。次に、気象条件は別として、記録を実現する方法を組織がしっかり整備されているか。最後に当然ながらホスピタリティーだという。
「これらを考えて代理人や選手自身がマラソンを選ぶ。東京が、コロナ禍という難しい時代に、しかも2022年の6大会の先陣を切ってこの成功を収めたのは祝福に値する」と評価する。キプチョゲは世界記録には届かなかったものの、中間点までそのペースを上回り、優勝賞金1100万円と大会記録300万円を手にした。
世界の主要都市でそれぞれ約3万人が参加して行われるビッグイベントが、東京から息を少しずつ吹き返していくようだ。
キプチョゲら先頭集団には、10㌔過ぎにコースを間違えるアクシデントがあった。レース後、コースを間違えた影響について質問されると「記録のロスにつながるようなものではない」と断言した。実際に、その直後、隊列が崩れてペースが不安定になりかねない先頭集団を安定させるために、キプチョゲ自身が先頭でレースを引っ張り、一早くペースの正常化をはかる場面があった。
世界記録保持者、五輪金メダリストが見せたのは、速さだけではなく、揺るぎのない圧倒的な強さでもあった。レース2日前の記者会見では、目標タイムを聞かれると、用意されたボードに「STRONG」とだけ記入していた。レース中に起きたアクシデントに対応し、レースを引っ張るなどしたことで、「ストロングの意味をお分かりいただけたと思う」と、誇りをにじませた。
ケニアのカプタガットという高地(2500㍍)にトレーニング拠点を置き、30名ほどの若手ランナー、海外から参加するランナーたちと衣食住を共にする。
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