カミーラ・ワリエワ問題はIOCが当初から毅然として対応していれば防げた
2022年03月14日
2月24日にロシアのウクライナ軍事侵略が始まって2週間以上が経過した。停戦交渉も進展がなく、心がずしんと重くなる映像、ニュースが毎日次々と報じられている。
北京オリンピックで起きた、ロシアのカミーラ・ワリエワのドーピング陽性結果が世界のトップニュースだったことが、まるではるか昔のことのようだ。
その無法国家ぶりをあらわにしたロシアに関して、今さらスポーツのドーピング違反を論じることなどもはや虚しく、無意味にすら思える。
だが改めて考えてみることにより、今のロシアの現実というものも見えてくる。
国連で採択された五輪休戦決議(北京冬季五輪の開幕7日前の1月28日からパラリンピック閉幕7日後の3月20日まで)に違反したロシアのウクライナ侵略で、IOC(国際オリンピック委員会)は各スポーツの国際連盟にロシアとベラルーシを国際大会から除外することを要請。ISU(国際スケート連盟)も、この2カ国の代表選手を期限未定で国際大会から締め出すことを決定した。
通常の場合だったなら、独裁政治の責任をアスリートに問うのは酷だという意見も出ただろう。トリノ五輪男子シングル金メダルのエフゲニー・プルシェンコや、プーチン大統領の右腕ドミトリー・ペスコフ報道官の妻で元アイスダンス・トリノ五輪金メダリストのタチアナ・ナフカなどロシアのスケート関係者たちから、この処分に対して激しい非難が寄せられた。
だが少なくともフィギュアスケートにおいては、ロシア人以外からこの処分に対する疑念の声は聞こえてこない。
その根本にあるのは、2月8日に発覚した15歳のカミーラ・ワリエワのドーピング陽性に伴って、ロシアのスケーターとその関係者に対する新たな不信感が生まれたことだ。
フィギュアスケート界のみならず、スポーツ界全体をゆるがした大事件だが、コーチ陣も含むロシア側の対応が、あまりにも誠意と配慮に欠けている印象を拭えなかった。
当初の管轄だったRUSADA(ロシア反ドーピング機関)は、陽性判明後にワリエワを暫定的に資格停止としたが、ワリエワ側からの異議申し立てを受け、資格停止処分を解除した。
IOC、ISU、WADA(世界反ドーピング機関)が上訴したスポーツ仲裁裁判所(CAS)は、大方の予想に反してワリエワの競技続行を許可。その理由はいくつか挙げられたが、彼女がWADAの規定で、「要保護者」とされる16歳未満であること、出場を禁じれば、仮に陽性判定が何かのミスだった場合ワリエワに取り返しのつかないダメージを与えるということが含まれていた。
だが彼女は世界中からの疑惑の目と激しい批判にさらされながら滑ることになり、フリーでは崩れに崩れて総合4位に終わった。
明らかに、CASの判断ミスだったと言うしかない。
世界中の人々が知りたいのは、ワリエワのドーピング陽性判定が最終的なものとすれば、誰がどのようにして彼女に違法薬物を摂取させたのかということだ。
検出された違法薬物「トリメタジジン」は心臓への血流を増やして、本来は狭心症や心筋梗塞などの治療に使用されるものだ。ロシア側は、この薬を服用していたワリエワの祖父と彼女がコップを共有したのが原因だったと弁明したが、多くの専門家はその可能性を真っ向から否定した。
その後ニューヨーク・タイムズによると、同じ検体から「ハイポキセン」と「L-カルニチン」という二つのサプリメント(こちらは違法薬物のリストに入っていない)も検出されたという。いずれも心肺能力を高め、疲労回復に対しての効果があるとされているものだ。ワリエワは日常的に、こうした総合カクテルを常用してトレーニングをしていた可能性をうかがわせた。
指導者のエテリ・トゥトベリーゼとそのコーチ陣は、生徒たちに厳格な体調管理をすることで知られる。食事はもちろん、飲料水の量まで制限してきた彼女たちが、この事実に全く関わっていないとは、考えにくい。
ここで誰もが思うのは、ではワリエワ単独の特殊なケースなのか、ということだ。
トゥトベリーゼが世の中に送り出してきたメダリストたちの名前をざっと上げると、ユリア・リプニツカヤ、エフゲニア・メドベデワ、アリーナ・ザギトワ、アリョーナ・コストロナヤ、アレクサンドラ・トゥルソワ、そして北京で新五輪女王となったアンナ・シェルバコワがいる。この過去数年間の女子の表彰台の歴史は、彼女の生徒なしでは語れない。
一体どんな魔法を使ってこうした優秀な選手を次々育てているのだろうか、
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