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「宮本から君へ」助成金不交付訴訟で問われる「公益性」と裁判官の「主観」

後出しジャンケンによる芸文振の内定取り消しを追認した東京高裁判決

臺宏士 フリーランス・ライター

 文化庁所管の独立行政法人・日本芸術文化振興会(河村潤子理事長、芸文振)が、制作会社の「スターサンズ」(河村光庸社長)が手掛けた映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督、2019年9月公開)への助成金1000万円(制作費は7800万円)の交付を内定通知しながら、出演者の一人が麻薬取締法違反の罪で有罪判決が確定したことを理由にあとから不交付を決定した(19年7月)。文化芸術行政の在り方が問われたこの問題をめぐっては、スターサンズが、芸文振を相手に不交付決定の取り消しを求める訴えを19年12月に東京地裁に起こしたことで法廷で争われることになった。

 一審・東京地裁は21年6月、理事長の裁量権を逸脱する違法な取り消しだとして原告の訴えを認めた。ところが8カ月後の22年3月、二審・東京高裁は、助成金の不交付決定を適法と判断。スターサンズは一転して逆転敗訴となった。同社は、高裁判決を不服として上告。裁判官はどのように判断したのか。

助成金が不交付となった映画「宮本から君へ」から。主演の池松壮亮(左)と蒼井優 =スターサンズ提供助成金が不交付となった映画「宮本から君へ」から。主演の池松壮亮(左)と蒼井優 =スターサンズ提供

ピエール瀧氏が薬物使用容疑で逮捕

 芸文振が助成金の交付内定を取り消した「宮本から君へ」は、漫画家の新井英樹氏が漫画週刊誌『モーニング』(講談社)に連載した同名作品の実写映画だ。

 文具メーカーに勤める主人公の若手営業マン・宮本浩が仕事や恋愛を通じて成長していくさまを描いた。宮本役を池松壮亮氏、恋人・中野靖子役を蒼井優氏が演じた。助成金不交付の理由となった出演者は、ミュージシャンで俳優のピエール瀧氏(本名・瀧正則)で、宮本の得意先会社の部長・真淵敬三役を演じた。その息子の拓馬が、泥酔する宮本の脇で靖子をレイプ。宮本が復讐を誓い、拓馬に決闘を挑むという人物関係だ。瀧氏は129分のうち11分間ほど登場する。

 関東信越厚生局麻薬取締部が瀧氏を麻薬取締法違反の疑いで逮捕したのは、19年3月12日。同日ごろ、東京都世田谷区の自宅とは別のマンションの一室でコカイン若干量を吸引したとされた。瀧氏と契約するレコード会社「ソニー・ミュージックレーベルズ」は翌13日に、CDやDVDの出荷停止と店頭在庫を回収し、音源、映像のデジタル配信も停止すると発表。NHKも急きょ、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で演じていた足袋店「足袋の播磨屋」の職人役に代役として三宅弘城氏を起用するなど波紋が広がった。

 瀧氏は、東京地検が麻薬取締法違反の罪で起訴した4月2日に所属事務所の「ソニー・ミュージックアーティスツ」からマネジメント契約を解除された。

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「公益性の観点から適当ではない」で不交付決定

 スターサンズの河村氏の説明によると、瀧氏の逮捕から芸文振の助成金の内定通知、不交付決定に至るまでの経緯はこうだ。

 芸文振は逮捕から2週間たった3月29日、スターサンズに助成金の内定通知を出す。同社は、芸文振が実施する文化庁の「文化芸術振興費補助金」(19年度)による助成事業に応募していた。劇映画にかかわる助成額は3億2400万円で、応募件数は66件あった(このうち24件が採択された)。

 芸文振の数人の担当者を交えた完成試写が行われたのは4月12日で、その際に芸文振側から瀧氏の出演シーンのカットを求める趣旨で同氏の出演シーンの編集や再撮の予定についての質問を受けた、という。

 これに対して、スターサンズ側は「(制作側としては)再編集、再撮の意見がないことを伝えた」という。河村氏は「『交付要綱』に、その時点では手続き上の不備を理由とする以外に『内定の取り消し』ができる明確な規定がなかったため、このような事実上の打診のようなものがあった」と感じたという(後述するが、芸文振はその後、「公益性の観点から不適当と認められる場合」に内定や交付決定を取り消すことができるよう助成金の交付要綱を改定した)。

 東京地裁(小野裕信裁判官)は6月18日の判決公判で、瀧氏の薬物使用について、常習的な犯行と認定。ただ、瀧氏が医師の指導に従って再犯防止のプログラムを受けていることや、所属事務所を解雇されたことで不利益を負ったことなどを考慮し、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。瀧氏は、7月2日までに控訴せず判決は確定した。

 スターサンズは、その10日後の6月28日に芸文振、文化庁の4人の担当者から口頭で助成金の不交付決定を告げられたという。その理由として

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