[3月6日~3月9日]チェルニフツィ、ルーマニア国境、ブカレスト、PCR検査……
2022年03月18日
3月6日(日) きのうの『報道特集』の生中継が終わるや、情けないことに、どっと疲労が噴き出して体を少しだけ休めることにしたが、荷物のパッキングやもろもろのことで、あっという間に時間が過ぎてしまった。食堂でランチをとっていたら、テレビでウクライナ軍を鼓舞するビデオ・クリップがまた流れている。バックにラップが流れているやつ。
スーパーマーケットの書籍コーナーで買ったウクライナの歴史の試験問題集をパラパラめくっていたら、本当に興味深くて、2014年のマイダン革命についての設問があったことは前にも触れたが、古代史、つまりウクライナという国の起源にまつわる問題も相当に取り上げられている。
ウクライナ語は分からないが、そこに添えられているイラストや写真に想像力をくすぐられる。ロシアからすればウクライナとロシアは同祖なのだが、どうもウクライナの教科書では微妙に違っているようだ。帰国してから誰かに概要を訳してもらおう。
パッキングが終わりかけていたら、部屋をノックする人がいる。ドアをあけると、隣室のウクライナ人家族の青年が立っている。最初の空襲警報退避の時に地下シェルターで話を聞いた家族の一人だった。彼らはキエフから逃げて来たと言っていた。
彼は、僕らがチェルニフツィを去ることを知って訪ねてきたのだろう。この青年がプレゼントすると言って持ってきたのは、何と第二次大戦後もソ連と戦い続けた民族主義者の「ウクライナ蜂起軍」の旗だった。彼はいつか日本に行きたいので連絡先を教えて欲しいと言ってきた。ウクライナにもいろいろな人たちがいるのだ。
あしたは朝早くチェックアウトしなければならない。考えてみれば、このチェルニフツィの町のホテルはどこも避難民で満室だったが、このどこかの工場か何かの保養宿泊施設みたいなところに泊まれて本当によかった。受付の女性や食堂の支配人を含め、みんな親切だった。
3月7日(月) 朝、起床すると外は雪が降っている。不思議なもので、いざ去るとなると名残惜しさのような感覚さえ生まれてくるのだから不思議だ。たった11日なのに。小雪の降る中、ルーマニア国境の検問所に近づくにつれ、おとといとは明らかに様子が異なっている。車列がはるかに長くなっている。
運転手さんのイーゴルさんともお別れだ。言葉は通じないが、コミュニケーションは何とかできた。僕らとともに仕事をしている期間中、彼は娘さんに赤ちゃんが誕生して「ついに、おじいさんになった」と言って、とても喜んでいた。
検問所直近のガソリン・ステーションには、アキバ・ロンドン支局長の取材チーム(といってもカメラマンのWとの2人だけだが)が、すでにルーマニア側からこちらに国境越えをしていて、僕らと落ち合った。アキバ支局長と再会するのはいつ以来だろう。中東のレバノンかイラクかどこかでだったような気がする。アキバたちはすこぶる元気そうだった。防寒対策もがっちりとやっていた。
この間、僕らの守護女神のように働いてくれたコーディネーターのオルガともここでお別れだ。アキバたちと短く言葉を交わして、バスと若干の所持品もろもろを引き継いで、それぞれ別の方向に歩きだした。
雪がやまない。僕らはバスから器材類など大量の荷物を取り出して、分担して運び、ウクライナ人の大行列に一緒に加わることになった。長い長い列だ。屋外の吹き曝(さら)しで寒い。だがとにかく並ぶしかない。まあ最初は「どうということはないさ」とタカを括っていたが、雪の降る中、ただひたすら待つことが結構しんどい。からだがぶるぶる震えている人もいる。感心するのは、赤ん坊や幼子を抱えた母親には皆無言で順番を譲って先に行かせていたことだ。
ソーシャル・ディスタンスどころではない。列は人と人との間隔が数十センチ。Kは薄手の靴を履いてきてしまって「爪先の感覚がなくなってきた」と言って足踏みをしている。みるとウクライナの人々も無意識にからだを動かして寒さをしのいでいる。雪がやまず、まいった。
実際のところ、国境の検問窓口では、パスポートや書類をチェックしてスタンプを押してもらうだけなのだ。その窓口が何と本当に小さな窓の1カ所だけなのだった。しかも「出る」人と「入る」人が同じ窓口。一体何をやっているのか。なかには並んでいるうちにからだの具合が悪くなっている人もいた。救急車が来て待機している。こんなバカげた対応をしているウクライナ入管当局は大馬鹿者だと思う。
待つこと3時間30分。ようやくルーマニア側へと出た。そこは、11日前にみた風景とは明らかに違っていた。ウクライナ難民のための支援体制がしっかりとできあがっている。
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