ワーケーション最前線《下》仕事と旅が融合した新しいライフスタイルの登場
【16】来訪者は地域のパートナーとして協働。デスクワークにとどまらぬ価値創造活動
沓掛博光 旅行ジャーナリスト

白砂のビーチが美しい和歌山県白浜町の白良浜。町にはワーケーションのサテライトオフィスが3棟建つ(白浜町提供)
コロナ禍の時代に注目を集める「ワ―ケーション」が、仕事と余暇の在り方を変えている。その解釈も活用のされかたも実に多彩で、人々の暮らしを豊かにし、社会を元気にするイノベーションが各地で進んでいる。
連載「ワーケーション最前線《上》」では、リゾートを舞台に仕事と余暇を両立させる働き方や、研修型スタイルで企業も地域も活性化させている事例を紹介した。今回の《下》では、ワーケーションの先進地域として知られる和歌山県の取り組みを紹介しよう。短期滞在ではなく、地域に駐在するサテライトオフィス型のワーケーションである。これらの流れから、新しい働き方や観光一辺倒ではない地域振興の姿が見えてくる。
先進地の和歌山県―充実したWi-Fi環境とアクセス利便を背景に
Wi-Fiの設置率が高い和歌山県は、ワーケーションの先進地だ。県の資料が引用する民間機関の調査データ(2018年)によると、1万人にあたりの設置数は全国2位の22,968個(ちなみに1位は沖縄県の38,582個)。
このWi-Fi 環境の良さを背景に、県は他の自治体に先駆けて2017年からワーケーションに取り組み始めた。全国組織の「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」が19年に設立された際には、仁坂吉伸知事が会長に就任している。
消費拡大・ビジネス創出から、企業誘致や定住まで見通す
ワ―ケーション政策の狙いについて、和歌山県情報政策課に尋ねた。福岡將元副主査によると、ワ―ケーションによる関係人口が生まれることで、地域の消費活動による経済活性化、地域でのビジネスの創出、その地域への企業誘致、移住や定住への手がかり、などが見込めるという。
さらに、「来られる方は単なるゲストとしてとらえず、地域のパートナーとして地域活性化に取り組み、地域にプラスに影響することを期待しています」と付け加える。
ちなみに、WAJの参加自治体は現在、全国の1道23県と180市町村だが、和歌山県は県内の半数にあたる15市町にのぼる。
来県は年々増加。8割は首都圏から
ワーケーションによる来県者数を見ると、2017年度が24社240名、18年度25社327名、19年度55社343名と、年々増加している。良好なネット環境のほか、「アクセスのよさや豊かな観光資源もプラスになっているでしょうね」と福岡さん。
空路では羽田から約1時間で南紀白浜空港に着き、ここから車で5分ほどで温泉が湧く白浜町、さらには世界遺産に登録されている熊野古道なども近い。現に来県する企業の8割は首都圏方面からという。