ワーケーション最前線《下》仕事と旅が融合した新しいライフスタイルの登場
【16】来訪者は地域のパートナーとして協働。デスクワークにとどまらぬ価値創造活動
沓掛博光 旅行ジャーナリスト

白浜町が建てた2棟目のサテライトオフィス(白浜町提供)
サテライトオフィスは増設の連続。名湯湧く白浜町の活況
その白浜町は、2000年から企業誘致を目的に県と連携を進め、04年にサテライトオフィス1棟(5室)を設置。しかし、誘致のハードルが高く利用は進まなかった。そこで町を訪れる人々を増やそうと、17年度からワーケーションを取り入れた。観光庁が掲げるワーケーションの形態の1つ、サテライトオフィス型(職場から離れた地域のサテライトオフィスなど利用してテレワークなどを行うこと)を導入したのである。
リモートワークができる環境整備や、移住に向けた行政のフォロー体制の拡充なども図った。そうした結果、サテライトオフィスの利用企業が増え、18年度に2棟目を建て、これでも足りず20年度に町と県の補助を受けて民間企業が1棟を設けた。現在3棟合わせて16室中15室が稼働し、14社が利用する盛況ぶりである。町内14箇所に無料Wi-Fiを設置し利便性を高めた。
滞在する企業による雇用拡大、季節波動のない町へ
各企業はこのオフィスを拠点に、自社ビジネスを活かした地域創生の可能性や地域の知見を学ぶ。白良浜など美しい自然に接し、ストレスを和らげながら働くというワーケーションのメリットを活かしている。
「今までは海水浴など夏季の観光中心の町でしたが、リモートワークが可能になった今、IT関連など様々な企業が本社や支社を置くことで雇用を拡大し、季節波動のない町をめざします」と白浜町総務課企画政策係の滝本斉主任は言う。担当が企画政策係なのは、観光ではなく企業誘致が目的だからである。雇用の改善を図り、若年層の都市部への流失を防ぐなど地域の活性化を目指している。
その成果は早くも見られ、サテライトオフィスに入っている企業が、東京や大阪などからのUターン組も含めた地元からの採用を始めている。
企業と地域の協働が進む―地元の課題をともに解決
ワーケーションの特色の一つに、地元の課題解決への参加がある。その地域の課題に一緒に向き合うことで、企業側は新しい考えや発見、地元は課題の解決というメリットを得る。
NECグループが観光客向けの顔認証サービス構築
白浜町のサテライトオフィスに2016年から入っているNECグループは、子育てや防災などの住民向けの暮らし情報発信アプリの開発や、「南紀白浜IoTおもてなしサービス実証」という顏認証サービスを19年に始めた。
顔認証サービスは、海水浴などで訪れる観光客が手ぶらでも観光ができるように、観光施設の入場やレストラン・ショップの決済が可能で、いわば顔パス的な便利さを備えている。南紀白浜空港内やパンダ飼育で人気のアドベンチャーワールドなど、現在は13の観光施設で使え、コロナ禍での非接触型の観光ツールとしても好評を得ている。
この事例は、ワーケーションによって企業と地域の協働が進むことを示している。