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「スポーツと生理」に向き合うプロジェクトが進化~女性アスリートの健康と社会の変化を願って

インスタで教材配信も開始。正しい知識を広げ、女性が生き生き活躍できる社会に

増島みどり スポーツライター

「相談しやすい環境を」――苦難の連続だった先達の思い

拡大「スポーツを止めるな」の伊藤華英理事。「1252プロジェクト」を進める=2022年3月1日
 プロジェクトのリーダー、伊藤華英さんは競泳の背泳ぎで08年北京五輪代表に選出され、日本女子スポーツ界をけん引した一人だ。昨年から時間をかけて作成されたオンラインの教材作成だけではなく、実際に部活の現場に足を運んで対面での勉強会も続けている。

 「私たちの現役時代は、月経について話すものではない、まして誰かに相談するなんて という雰囲気でした。仮に相談しようと考えても、コーチ陣は男性ばかりで難しかった。こうした経験から、まず、相談しやすい環境を作ってあげたいと考え、プロジェクトをスタートさせました」

 そう振り返る自身、仲間や先輩との会話で情報は得られたが、女性同士であっても分からない部分はあったという。個人差が大きいのに比較したり、不正確な情報によって、体調よりも心に不安を抱え、それがパフォーマンスを低下させる苦い経験も味わった。

 「あの人に比べて私は軽いとか、大丈夫かもしれない、とか、反対に自分は軽いからほかの人も同じに大丈夫、と自分で判断するのはいいことではありません」と、正しい知識を持つ重要性を説く。

拡大2008年4月の日本選手権100メートル背泳ぎ決勝で、伊藤華英は中村礼子(下)を抜き去り日本新で優勝。北京五輪出場を決めた=辰巳国際水泳場

悩み抱え、競技にも影響。それでも「生理は我慢」の実態

 オンラン教材「1252プレーブック」には、現場で吸い上げられた、学生選手たちの等身大の姿が反映されている。

 「運動部女子学生におけるスポーツ×月経実態調査結果」(出典:1252プロジェクト 運動部所属女子学生へのアンケート=2021年)によれば、運動部所属の女子選手のうち(約600人回答)、「運動するうえで月経に悩みを抱えている」と回答したのは42.4%にのぼった。「月経周期とスポーツにおける身体のコンディションの関連」では67.5%もの選手たちが「関連する」と、月経が競技に与える影響を自覚する。

 その一方で、「特別な対策はしていない」が63.4%で、「相談しない・できる相手がいない」の回答も27.9%と約3割に。相談相手は「母親」が53.6%で、医療機関の専門家への相談はわずかに3%。

 問題や悩みを抱え、自覚症状もありながら、積極的な改善策はとっていない。様々な情報が気軽に手に入る時代にもかかわらず、昔ながらの「生理は我慢」と、耐えている実態、課題が浮き彫りになった。

拡大オンライン教材「1252プレーブック」のコンテンツの一部=インスタグラムの公式アカウント「1252プロジェクト」から

筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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