ウクライナ→東京→ベラルーシの移動で考えたこと
[3月10日~3月15日]ウクライナ大使館、『病める舞姫』、ミンスク……
金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター
ベラルーシ滞在日記を残しておきたい
ルカシェンコ大統領は「戦争」と言った
3月10日(木) ウクライナから日本に戻っての時差ボケで真夜中に目が覚めて、BBC World Newsを見ていたら、日本のジャーナリズムとは比較にならない、レベルの高い、ものすごく重厚な取材の成果を見せつけられて、心底まいった。
というのも、首都キエフ(ここからは、BBCの首席国際特派員Lyse Doucetが登場していた。アフガンがタリバンに再支配された際に最初に入ったあの記者だ)、空爆で激しい被害を受けた北東部の都市ハリコフの中心部(凄まじい空爆の跡)、さらにはハリコフ郊外のロシア軍との戦闘最前線(ウクライナ軍の許可を得ての同行取材である)、そして西部の都市リビウ(ここには多くの西側記者が滞在している)と、4地点で多角的な取材を展開していたからだ。まいった。本気度が違う。取材内容も実に濃密だ。BBCはウクライナ侵攻報道においては突出している。

BBCの首席国際特派員Lyse Docet=撮影・筆者
だが正直、ここまでやるかと考えることもあった。とりわけ、戦闘最前線の取材で、戦死したロシア兵の遺体が路上に放置されていた真横で、記者(クエンティン・サマヴィル記者)がリポートしていたシーンには強い衝撃を受けた。遺体からは血のりのような真っ赤なものがみえる。モザイク処理はされていない。
BBCではよほどのことがない限り、モザイク処理というような映像の加工を行わない。これが戦争だと言えばその通りなのだが、実際に映像に接すると動揺する。遺体はロシア兵のチェチェン人だと認識票から判明したという。これがウクライナの民間人の遺体なら、そのすぐ真横でリポートしただろうか。実際に、わずか前のカットでウクライナ人の民間人の遺体が映っていた。

BBC World Newsの放送より=撮影・筆者

ロシア兵の遺体の横からのリポートには衝撃を受けた=撮影・筆者
それで思い出したことがある。11年前の東日本大震災で、津波被害を受けた町から、米CBSが報じた際に、遺体が数多く回収されていた安置所のような場所でCBS記者が、遺体をバックにリポートしたことを知って、言うに言われぬ複雑な気持ちを抱いた記憶があることだ。確かにそれは、大津波の被害の現実なのだが、やはり欧米とは死生観のようなものが根本的に異なるのか。僕にはわからない。
ウクライナ入りしている遠藤正雄さん、新田義貴さんと連絡がとれて、彼らはキエフに取材に向かうという。予想した通りの動きだ。大変な危険を伴うが、数々の戦場取材を経てきた遠藤さん、新田さんのことだ。独自の人脈・嗅覚で、おそらく取材を遂行するだろう。その旨『報道特集』のスタッフに伝える。
日本をあけていた間に届いていた郵便物や書籍の整理。筑摩書房のPR誌「ちくま」連載中の蓮實重彦氏の文章に大笑い。「週刊金曜日」の原稿の最終校正。ベラルーシの件で急展開あり。熟考せよ。

蓮實重彦「些事にこだわり 6 「バーカ!」といっておけばすむ事態があまりに多すぎはしまいか」=『ちくま』、撮影・筆者