清義明(せい・よしあき) ルポライター
1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ウクライナの専門家でもない筆者が、なぜウクライナの極右やネオナチ事情について書いているかというところから始めよう。
筆者がウクライナのネオナチまたは極右と呼ばれる存在を知ったのは、実は政治とは関係ない。2012年のサッカーの欧州選手権がきっかけである。
ことによってはワールドカップよりも人気があるといわれるのが、ヨーロッパのナショナルチームによって争われる欧州選手権だ。その大会が、2012年には、ウクライナとポーランドの共催となった。しかしこれが問題になった。両国が、この華々しい大会にふさわしいのかどうかと疑義が各所からよせられたのだ。理由は差別問題とネオナチだ。
以下、拙著『サッカーと愛国』(イーストプレス2016)から引用する。(注10)
ガブリエル・クーン(著述家。世界のサッカーサポーター事情とレイシズム問題に詳しい)はオーストリアの生まれであり、特に中欧や東欧のサッカー事情に詳しい。この地域でのサッカーにおけるレイシズムや排外主義の話を聞いてみようとするが、ガブリエルはあまり良い顔をしない。こちらはどうやら反ユダヤ問題が大きいらしいのだ。
(中略)
「東欧ではサッカースタジアムにレイシズムが跋扈している。ウクライナ、ポーランドは特にひどい」とガブリエルは苦い表情で言う。
2012年の欧州選手権は、ウクライナとポーランドの共同開催だった。だが、この大会ははじめから西欧各国で懸念されていた大会でもあった。元イングランド代表でキャプテンマークを巻いたこともあるDFソル・キャンベルは、BBCのインタビューで、黒人やアジア人のイングランドサポーターに対して「死の危険にさらされるだろう」と言い、両国での観戦に対して「行くべきではない」と強く警告した。もちろん理由は激しい人種差別である。BBCは、動かぬ証拠として、観客がナチスの敬礼をし、黒人選手にはモンキーチャント(黒人選手を揶揄するサルの鳴き声のマネ)を浴びせ、白人優位主義の印であるケルト十字のマークをマフラーに入れ、反ユダヤのチャントを高らかに歌うサポーターの姿を放送した。そして極めつけは、アジア人サポーターが襲われている姿が記録された映像だ。(注11)
この時、筆者がガブリエル・クーンに「日本人である私も危険か」と聞くと、ひとこと、「おすすめできない」と語っていたのを鮮明に記憶している。
「レイシストのシンボルと反ユダヤの応援歌は、ウクライナのサッカーシーンの一部である」と、このBBCの番組はリポートする。しかしそれだけではない。
サッカーの熱狂的なサポーター集団は「ウルトラス」という通称で呼ばれる。BBCだけではなくイギリスのスカイスポーツも、ウクライナの「ウルトラス」に密着取材を試み、外国人排斥をあからさまに語った現場を放送している。差別主義をひけらかすそのサポーターたちは、セルティックのアジア人サポーターやトッテナム(ユダヤ人サポーターが多いとされている)に、差別発言を続け、極めつけに「シュー」という擬音を発している姿を放送した。これはナチスのガス室