少子化と経済低迷、そしてコロナ禍が「せめて衣装だけは」に拍車か
2022年03月28日
今年も卒業式シーズンが終わった。全国各地の「まん延防止」が切れたタイミングであり、過去2年ほどの混乱は見られなかった。新型コロナウイルスが登場した2020年春は、卒業式の開催さえ危ぶまれていたことを思い出すと、わたしたちの生活もコロナとある程度「共存」するようになったのを感じる。
さて、今回は公立小学校の卒業式における「和装化」について取り上げてみたい。
シニア世代の方には信じられないことだと思うが、現在全国各地の小学校卒業式で、子どもたちの和装化が進んでいる。大学の卒業式ならともかく、小学校である。正確なデータは存在しないが、2010年ごろはアイドルグループAKBに似せた制服スタイルの衣装が流行っていたという動向をふまえると、和装化はここ10年ほどの流れではないかと考えられる。
本稿では、「華美」と安易に批判されがちな和装化の背景に何があるのか、子どもと保護者の生活実態に即して考えてみたい。
現在、京都市の場合、女子は袴に編み上げブーツ、男子も紋付袴という姿が珍しくない。京都新聞は2019年の時点で、すでにその問題点を取り上げている。
「小学校卒業式のはかま『悩ましい』 一生の記念、でも負担重い」
京都市内のある小学校の校長は、数年前に赴任してきた時、卒業式ではかまを着用する女子児童が多いことに驚いた。8~9割が着用し、髪を華やかにセットした児童も目立つという。(中略)卒業式でのはかま着用に関する議論は、他の自治体でも起きている。名古屋市は、市議の指摘を受け昨年1月、児童と保護者に卒業式の服装に関するアンケートを実施。約45%の保護者が式の服装について「華美になり過ぎている」「経済的負担が大きい」と考えていることが分かった。一方で、服装のあり方は「家庭で判断すればよい」が52%と半数を超え、同市教委は「一律には規制せず、学校ごとに検討する」との対応方針にした。(「京都新聞」2019.3.19)
この見出しの通り、和装は華やかで記念になるが、経済的負担の大きさとのバランスが難しいのである。もはや卒業式は、それぞれの家庭の「気合い」をストレートにあらわす日となっている。今年は次のように報道されている。
(省略)上京区の西陣中央小では、6年生約90人が出席。和装産業が多い地域のため、はかまや羽織姿の児童も目立った。(「京都新聞」2022.3.23)
ここでは、京都の和装産業と結び付けて論じられているが、誰もが西陣織や京友禅を身に付けているわけではないだろう。むしろ後述するように、インターネットを通じた着物(扱いやすい化学繊維)の入手が普及したと考えられる。というのも、京都市内では西陣のように明確な和装産業がない地域でも、高い割合での子どもの和装が見られるからである。
そもそもなぜ卒業式では、普段と異なる服装をすることが多いのだろうか(全国には、普段着で卒業式を行う学校もあるが、多くの場合それは、自由な教育方針を掲げる私学である)。もし子どもの和装に違和感を覚える人は、どのような服装なら卒業式に望ましいのか考えてほしい。
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和装でない場合、これまでの例だと男子はスーツ、女子はジャケットにミニスカートといった服装が多く見られた。だが、果たしてこれらは「望ましい」服装なのだろうか。
よく考えれば、これらの服装は子どもに「サラリーマン」と「OL」の仮装をさせているといっても過言ではない。なぜライフコースにおける服装を先取りさせることが「フォーマル」であることになるのか、わたしたちは疑わずに来てしまった。したがって、卒業式の服装をめぐっては和装化以前に問題が存在していたと言える。
洋服が主流だった頃の卒業式でも、高額なフォーマル子ども服が問題となっていた。そこで提案されたのが、進学先の中学校の制服を着ることであったが、「小学校で中学の制服を着る意味がわからない」との声もあったという。小学校卒業式は、子ども・保護者・学校間の相克の最後の1日であり続けてきた。
それでもなお、
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