熊本県天草の「カレッジ」、安否確認もスイスイと
2022年03月31日
「100歳まで50代の脳年齢を保って人生総幸福量を最大化する」
そんなスローガンを掲げて、熊本県の天草地域で高齢者層を対象にスマートフォン講座「天草スマートカレッジ」が開かれている。
地域の高齢者層がお互いに教え合い、学び合う独特の手法で、受講者数はスタート時の約20人から延べ約750人に増えた。発祥の天草市から近隣の上天草市や苓北町にも広がり、11カ所で開校するまでに発展している。
「学長」を務める吉永繁敏さん(81)によると、同カレッジでは、6人でグループを組み、スマホ操作が出来るようになった人が他の人に教え、互いに「先生・生徒」となるグループ学習をしている。そこで習ったLINEを活用して、遠方の子や孫、親類、友人たちと毎日のように写真やスタンプを送り合い、ビデオ通話を楽しむことで、「人生観が変わった」という人もいるという。電話会社などが開く高齢者向けのスマホ教室は全国にあるが、高齢者同士がグループで学び合うスタイルは珍しい。そこが注目されている。
「幸福量」という耳慣れない指標に着目した取り組みのきっかけは、2009年にさかのぼる。
全国で高齢化が進む中、天草市でも、過疎化や空き家問題、限界集落などの問題は深刻だ。
高齢者は、今後どうなっていくのか、さまざまな不安を抱えているに違いない。そんな不安の実像を探ろうと、山口さんは2009年、独居老人を対象にした調査を天草市社会福祉協議会に提案。1000人に「いまの生活でどんなことに困っていますか」という一つの問いだけをぶつける聞き取り調査が実施された。
集まったデータを分析し、判断する指標として着眼したのが「世界で一番幸せな国」を提唱するブータン王国の取り組みだった。経済優先の国内総生産(GDP)から国民総幸福量(GNH)へ。欧米諸国などでも近年、国民の幸福実感を高めるために「環境政策に力を入れる」「政治の透明度を高める」といった政策にGNHを反映させる動きが広まっている。
山口さんは幸福量の研究を深め、天草市は2015年から2020年にかけて、市内の五つの地域で幸福量調査を実施した。
幸福量を高めようとする取り組みの中で、めざした人物像には一人のモデルがいた。日本初の知的障害児通園施設「しいのみ学園」を福岡市に設立、運営したことで知られる曻地(しょうち)三郎さん(2013年に107歳で死去)だ。医学博士と文学博士の二つの博士号を持つ、福岡教育大学名誉教授でもあった。
曻地さんは93歳から朝鮮語を学び始め、95歳からは中国語を、100歳からロシア語とフランス語を学んだ。数え年100歳を記念して約40日間、世界一周の講演旅行をした。NHKスペシャル「老化に挑む」の中で、曻地さんの脳機能は、100年使い続けた脳とは思えないほどしっかりしていると評価された。
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