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「帰国事業」裁判で北朝鮮政府を訴え敗訴、それでも原告は「一歩前進」

「主権免除」の壁を一部突破、判決は「地上の楽園」宣伝の虚偽性を認定

北野隆一 朝日新聞編集委員

北朝鮮政府の出国制限は日本の裁判所の管轄権を否定

 原告が「北朝鮮による不法行為」と主張した一連の行為について東京地裁は二つに分け、それぞれについて訴えの当否を検討した。

 原告の主張のうち、北朝鮮が朝鮮総連を通じて、北朝鮮を「すべての権利が保障された地上の楽園」であるとの「虚偽の宣伝」により北朝鮮への渡航を勧誘したとする行為を「勧誘行為」と分類。また、北朝鮮に渡った原告らを北朝鮮内に留め置いた行為を「留置行為」とした。

 原告は「勧誘行為」と「留置行為」は「一体の継続的不法行為」だと主張した。これに対し判決は、勧誘行為が日本で行われた「帰国の意思決定を仕向ける行為」であるのに対し、留置行為は「北朝鮮に帰国した原告らを継続的に北朝鮮内に留め置いて原告らの出国の自由に制限を加えるもの」と定義。二つの行為は「時期、場所、態様及び目的を異にしており、一連一体の不法行為とみることはできない」と判示し、「別個の行為」として分離した。

 さらに判決は、日本の裁判所が管轄権をもって不法行為を裁くことができるのは、加害行為が行われた場所(加害行為地)や結果が発生した場所(結果発生地)が日本国内にあることが必要だとする判例を前提として提示した。

 そのうえで、北朝鮮が「帰国事業による帰国者に限らず、国民一般の出国を原則として禁止していた」ことに着目。「留置行為」については、「被告(北朝鮮)が自国民一般に対して行った出国制限の一環」と認定し、加害行為地、結果発生地がいずれも北朝鮮であるとして日本の裁判所の管轄権を否定。訴え自体を「不適法」として却下した。

 川崎さんが脱北して以降、北朝鮮に残した子どもたちと面会交流できなくなっていることについても判決は、管轄権がないとして訴えを却下した。川崎さんが判決に落胆したのは、自身が家族と引き離されたままになっていることについて、東京地裁が訴えの内容に立ち入ることなく、法律論だけで門前払いとしたことへの失望が大きかったようだ。

 とはいえ、判決が原告の請求をすべて却下したのではなかった。

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筆者

北野隆一

北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員

1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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