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成年年齢引き下げに際し、AV出演年齢の自主規制をする意義とジレンマ

第三者機関のAV人権倫理機構は、少女を救うルールを業界側に通達している

河合幹雄 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

 2018年6月に成立した「民法の一部を改正する法律」が、2022年4月1日から施行されたことにより、成年年齢が18歳に引き下げられた。飲酒、たばこ、競馬、競輪、競艇については、20歳以上でなければならないことを維持する立法手当てがなされた一方、元々18歳から働けた風俗産業で働くこと、AV(アダルトビデオ)出演等は、なんの対応も取られない。

AVのネオンshutterstock.com
 AVについては、18歳で成年となることで、ひとつ影響がでる。これまでは、18歳、19歳で出演してしまった女優に対して未成年者取消権を行使し、出演契約を無効とし、作品の映像配信と商品の回収を請求できた。ヒューマンライツ・ナウなどの人権団体と立憲民主党は、この手段がなくなれば、これまで控えられていた18歳なりたての高校生まで含めて18歳や19歳の女子がAVに出演するようになるので、18歳と19歳に取消権を維持しようと提案している。

 ただし、この現状予測は、そう当たらないと思われる。合法に活動する業者(モザイクが映像に入っている作品)の大手を中心に立ち上げた、適正AVグループから依頼された第三者機関のAV人権倫理機構(人権倫)は、民法改正後も「AVに出演を希望する女性に対する面談、契約、登録、撮影は、20歳に達してからとすることを強く推奨する。例外として18歳、19歳のAV出演希望者を受け入れる場合には、以下について厳守するものとする」との通達を業界側に対して3月23日に出した(人権倫HPのお知らせ参照)。

・18歳で高等学校などの学校法人に在籍する者に対しては、AVに関連した面談、契約、登録、撮影は一切行わない
・面接から撮影までのすべての工程において、とりわけ丁寧なAVへの出演意思確認を各工程の際に重ねて実施していく
・AVとはどういうものか、顔バレ等リスクについても重要事項として十分説明すると共に、面接から撮影日まで熟慮期間を十分取ることとする

 私は、この人権倫の理事のひとりであるが、この問題について、個人的な見解を述べるとともに、議論のために資すると思われる情報提供をしたい。何しろ事態は、複雑なのである。

少女を救いたいがためのジレンマ

 10代の少女の安全という、より広い視野で見てみることが、本当の問題を理解するうえで欠かせない。少女が初めて家出するのは中学生、12歳か13歳あたりで、最も家出少女の数が多いのは15歳、16歳であろう。彼女たちが歌舞伎町のような夜の繁華街を歩いていると、様々な悪い誘いがかかる。スカウトなどと言われる者は、このような少女たちを、様々な「働き口」に売り飛ばすというか斡旋(あっせん)するというかして稼ぐ。そのさいに18歳、19歳ならば、風俗店で働くことができるので、そこに紹介し、容姿などをみてAVもあり得る。

 後で詳しく述べるが、大手の合法AVメーカーは、現在は、おしなべて20歳の誕生日までデビューさせない。プロダクションは、売れそうな子だと判断すると、自社に登録し、20歳になるまで、一般のモデルなどAVでない仕事を紹介しながら待つことが通常である。

「パパ活」「パパ活」の待ち合わせ場所に現れ、補導される少女(中央)=2018年9月10日、大阪市中央区

 それでは、18歳になってない少女はどうなるのか。

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