半年間の激闘~追い込まれたからこそ体得したレジリエンスを武器にカタールへ
2022年03月31日
どしゃ降りの大阪・吹田サッカースタジアムでの敗戦(昨年9月2日対オマーン、0-1)からスタートしたW杯カタール大会アジア最終予選が3月29日、半年の激闘を経て終わった。日本代表は埼玉スタジアムで、ベトナムに1対1と引き分け、勝ち点22(7勝1分2敗)でBグループ2位。勝ち点23のサウジアラビアが首位となった。
ベトナム戦は、コロナ禍で続いた観客の上限規制が撤廃され、久しぶりに4万4600人ものファンがスタジアムに足を運ぶ。「終わり良ければ……」とする試合内容には、ほど遠かったが、活気が蘇ったスタジアムで、W杯出場権を獲得した厳しいレースのゴールを迎えられたのは幸運だった。
5か国によるホーム&アウェー10試合は、コロナ禍の影響を大きく受けた。アウェーの中国戦は、中国への入国制限のため、「中立国」としてカタールのドーハで実施された。また、観客の入場制限は常に定められ、スタンドは最終予選とは思えない寂しい様子に。さらに、AFC(アジアサッカー連盟)がスポーツ中継などの動画配信をする「DAZN」と契約し、日本では、アウェー戦が初めて国内の地上波で中継されないなど、過去とは大きく様変わりした最終予選でもある。
日本代表は3月24日、シドニーでオーストラリアに2対0と勝利し、7大会連続のW杯出場を決めた。
監督は経験を「具体的には伝えていない」とした上で、「それでもひとついえるのは、W杯は誰かが与えてくれるものではなく、自分たちで勝利を掴み取るものだということ。それは伝えました」と、あえて「掴み取る」と、強い表現した。
4年前、代表監督に就任した際、「ドーハの悲劇よりも厳しい体験は、その後もなかった」と言った。
94年のW杯アメリカ大会に手をかけた93年のアジア最終予選、最終戦でイラクにアディショナルタイム90分17秒で同点とされ出場を逃がした「ドーハの悲劇」の経験者は、自らの経験を選手に伝えるのではなく、「掴み取る」という言葉に込めた。当時は、「逃げ切ろう」「何とかこのまま2-1で試合を終えよう」と、夢を目前に守りに入ってしまった気持ちを後悔したという。
オーストラリア戦後半39分、森保監督は運動量で攻守に貢献した南野拓実を三笘薫に交代。また中盤の田中碧を原口元気に代えて、一気に攻勢をかける最後のカードを切った。
その5分後、残り1分に三笘が勝利を決めるゴールを奪うが、日本代表は、監督の「掴み取る」を表現するかのように、そこで一切満足しなかった。アディショナルタイムに入った49分にも三笘がゴールを決め、まさに勝利を「掴み取った」展開となった。
W杯アジア最終予選をアウェーで突破したのは、10年南ア大会出場権を獲得した09年、13年前まで遡る(岡田武史監督指揮下)。ワンチャンスを、難しい環境下でものにする勝負強さや底力も示したといえる。また、7大会連続出場には、世界ランキングとは異なる、今の日本代表の現在地を示すような記録も付いた。
初出場(98年フランス大会)からの7大会連続出場は、第1回のウルグアイ大会からカタール大会まで22回連続出場のブラジルに次ぐものだ。前回のロシア大会まで並んでいたイングランドの6大会を抜いて、これで単独2位に。
世界中で200カ国が参加するW杯予選で、本大会に初出場を果たした「初心者」が、その後約25年に渡って出場を続け、中堅、ベテランとなるまで国のサッカーを進化させるのは決して容易ではない。7大会連続出場は、日本が、少なくてもこのようなレールに乗っている現在地を示す数字といえる。
コロナ禍で、親善試合が行えず、予選も全てぶっつけ本番、それも欧州でプレーする選手の増加によって全員が集まってトレーニングできるのはいつも、試合前日の1回と厳しい状況だった。
最終予選の初戦に敗れて、勝ち抜くためのセオリーである「スタートダッシュ」はできなかった。昨年の東京五輪も森保監督指揮下で戦い、吉田麻也、遠藤航、酒井宏樹の「オーバーエージ組」(五輪出場は23歳以下だが24歳以上を最大3人登録可能)の疲労も重くのしかかったといえる。
若手とベテラン勢の新陳代謝もなかなかスムーズにはいかず、ベテラン勢は敗退の責任を負う形で手厳しい批判も受けた。
批判の矢面に立った長友佑都は、突破決定後の会見でこんな話をした。これで南ア大会以来、4大会連続でアジア最終予選を勝ち抜く「勲章」を手にした。
「今までの予選で一番苦しかった。改めて、どんな時にもブレずに強い気持ちで戦う大切さを再確認できたと思う。自分自身に、苦しい時に立ち返る‘根’のようなものができた」と話し、これだけ長く代表を務めながらも、苦しい戦いの中に新たな手応えを実感したという。
決戦から一夜明けて、森保監督が取材に対応した際も、同じように「困難だったからこそ」と、今予選を振り返っている。
「この最終予選で追い込まれたことによって、自分は、伝えるという部分で、もっと選手のために突き詰めていかなければならないと痛感しましたし、トレーニングの映像や練習計画と、選手からの要求が日に日に高まって行った。追い込まれて、準備のクオリティーがもの凄く上がったと実感しています」
長友と監督が話したチームの強みとは、「レジリエンス」(英語で圧力やストレスに対する復元力や回復力を意味する)にあったのだろう。追い込まれたからこそ、そこを乗り越えるためのメンタル的な強さがより鍛えられていく。
日本サッカー史上最高位となる、目標のW杯ベスト8を目指す上で、今回、苦しんだ予選で手にしたこのレジリエンスは、カタールでの持ち味になり得る。
W杯はこれまで夏に開催されてきたが、中東のカタールの気候を考慮し、今回は11月21日開幕と、初の冬開催で日程が組まれる。監督は「準備期間は実質半年」と話し、9月に予定されるインターナショナル・マッチ・デー(IMD)を終え、チームをある程度固める方針を
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