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コロナ禍にも粛々と島の暮らしをまもった「国産レモン」の生口島

町ぐるみで、のんびりと、ゆったりと、気のいい空間を作っています

薄雲鈴代 ライター

銭湯絵に描かれた瀬戸内海の幸と名産レモン

 日頃は立ったままシャワーで入浴を済ませる人でも、むかしの日本人がしていたように、膝(ひざ)をついて木桶に湯を汲(く)み、掛け湯をしたいと思わせる、そんな銭湯が、瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)の瀬戸田にある。

 湯船に浸(つ)かると、これまた牧歌的な銭湯絵が目にとまる。のたりのたりとゆく船に瀬戸内の島景色、黒松に蘇鉄、タコ、タイ、ワタリガニと海の幸、そして瀬戸田の名産レモンが描かれていて、どれほど豊饒(ほうじょう)な島であるかを物語っている。

銭湯絵yubuneの銭湯絵
銭湯全景美術家・ミヤケマイの筆による

 この生口島は、行政区でいえば広島県尾道市瀬戸田町である。尾道、三原から連絡船が行き来する瀬戸田港は、江戸時代には北前船(西廻航路)の船着き場として賑(にぎ)わった。その時分は、塩田の製塩業や漁業、造船業が盛んであったという。現代はなんといっても日本一のレモンの産地で「レモンの島」と呼ばれている。温暖な瀬戸内の気候に、島の半分が急斜面という日当たりの良さから柑橘(かんきつ)類の生育に適し、国産レモンのシェア3割を誇る。

 レモンといえば、スーパーで見る黄色い輸入レモンが当たり前になっているが、それは昭和39(1964)年に輸入レモンが自由化されてからのこと。生口島レモンの歴史は昭和の時代とともに始まっている。昭和2(1927)年、天皇陛下の即位を記念して、西口村(現・瀬戸田町)に苗木が植えられたのを皮切りに、翌年より植え付け栽培がされた。

 長らく輸入レモンに圧されて、国産レモンは活路を奪われるが、近年、ポストハーベスト(防腐防カビ剤を散布する)輸入レモンに対して、無農薬栽培で皮まで美味(おい)しく食べられる国産レモンが注目されている。

地産地消、島をめぐるサステナブル

 国産レモンといえば希少で高価なイメージがあるが、瀬戸田の町を歩いていると、ひと盛100円ぐらいで店先に並んでいる。見慣れた輸入レモンに比べて、小ぶりで皮が薄い。なんとも爽やかな香りで、酸味がまろやか。広島弁で「ちぃとすいぃ(ちょっと酸っぱい)」と土地の人に教えてもらった。

国産レモン店先の国産レモン

 瀬戸田港からまっすぐつづく「しおまち商店街」には、レモンや蜜柑(みかん)を売る店が点在する。古い看板や店構えを見ていると栄えた町であったことがうかがえる。それも今は昔。高齢化も相俟って、廃業された店が軒並みである。

瀬戸田港瀬戸田港
しおまち商店街しおまち商店街

 「息子は京都へ出て、もう島には帰ってこないと思う。でも、この最近、若い人たちが島に来て起業してね、お隣さんも関東から移住されてコーヒーの焙煎(ばいせん)をされていますよ」と、呉服店の女将さんが教えてくれた。

 たしかに閑散とした商店街に、自転車カフェや雑貨店など、お洒落な店が目を惹(ひ)く。

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