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「ウクライナ避難民」を口実に入管法案を再提出するなら火事場泥棒だ

新制度は不要。国際基準に沿って「難民」に認定を

児玉晃一 弁護士

 2022年4月7日、時事通信が「『準難民』制度の創設目指す 入管法改正案、今秋にも再提出 政府」との見出しの報道をしました。

 記事によれば、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、難民条約上の狭義の「難民」に該当しない紛争避難者らを、「準難民」として保護する制度の創設を急ぐ方針ということです。

 もし、これが、2021年の通常国会に提出されながら、国内外から多くの批判、反対を受け廃案となった入管法案(以下「旧法案」といいます。)を再提出しようというのであれば、とんでもない「火事場泥棒」というほかありません。

拡大ポーランド国境に向かう人たち=2022年2月26日、ウクライナ西部・シェヒニ近郊

旧法案の「補完的保護」では、ウクライナから逃れる人は当てはまらない

対象は、難民条約の「5つの理由」以外で「迫害」の恐れがある人

 旧法案で新設しようとしていた「補完的保護対象者」について、出入国在留管理庁は「入管法改正案Q&A」Q4で以下のとおり説明しています。

 「〇 加えて、今回の法改正により、難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人を「補完的保護対象者」として、難民と同様に日本での在留を認める手続を設けることとしています。」

 ですが、政府案の補完的保護対象者は、難民条約が定める人種、国籍、宗教、特定の社会的集団、政治的意見という5つの理由以外で、「迫害を受ける恐れがあるという十分理由のある恐怖」を有する者を保護するというものです。

難民申請が認められない原因はむしろ、「迫害」をめぐるローカルルール

 これまで日本の難民申請がほとんど認められなかったのは、5つの理由にあてはまらないということが原因ではなく、むしろ「迫害を受ける恐れがあるという十分理由のある恐怖」について、国際的には通用しない完全ローカルルールを用いて、極めて厳格な認定をしてきたからです。

 たとえば、ここでいう「迫害」の主体について、入管は「迫害と申しますのは、一般的には国籍国の国家機関またその政府によって行われるものと解されておりますけれども、我が国における難民認定制度の最近の傾向といたしましては、このように非国家主体による迫害の申立てや、そもそも難民条約上の迫害に該当しないような申立てが相当数に上っているということが言えると思います。」との見解を示しています(2013年10月4日「第6次出入国管理政策懇談会」における妹川難民認定室長発言=15頁)。

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筆者

児玉晃一

児玉晃一(こだま・こういち) 弁護士

1966年生まれ。早稲田大学卒業。1994年弁護士登録。2009年からマイルストーン総合法律事務所(渋谷区代々木上原所在)代表弁護士。1995年から入管収容問題、難民問題に取り組む。移民政策学会元共同代表、元事務局長。2014年からは”全件収容主義と闘う弁護士の会 「ハマースミスの誓い」”代表。2021年春の通常国会衆議院法務委員会では改定入管法に反対の立場で参考人として意見を述べた。著書・論文に『難民判例集』(2004年 現代人文社)、『「全件収容主義」は誤りである』(2009年 『移民政策研究』創刊号)、「恣意的拘禁と入管収容」(法学セミナー 2020年2月号 2020 日本評論社)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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