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ウィシュマさん最終報告書が示した改善策、入管の「取組状況」を検証したら中身はなかった

第三者による徹底的な検証と改革を

児玉晃一 弁護士

 2021年3月6日に名古屋出入国在留管理局で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの事件について、同年8月10日に出された最終報告書(以下「最終報告書」)で、「出入国在留管理庁が、今後、二度と本件と同様の事態を発生させることなく、人権を尊重して適正に業務を遂行し、内外から信頼される組織になるため」(同本文94頁)、12項目の改善策が示されました。

 出入国在留管理庁は、その取組状況をウェブサイトで公開しています。

 本稿執筆時に公開されている2022年4月版では、12項目中11項目について「実施済」とされていました。

 ですが、これらを一つ一つ検証していくと、およそ「実施済」として、改善が見られたというには程遠い実態が明らかになりました。

出入国在留管理庁の「改善策の取組状況」の2ページ目

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12項目の改善策、それぞれの「取組状況」を検証すると

①「出入国在留管理の使命と心得」(仮称)の策定
・全地方官署職員の意見を集約(計4回)、本庁職員と現場職員との意見交換(6官署で実施)
・外部有識者(第7次出入国管理政策懇談会委員)からの意見聴取
 →これらを踏まえて、「出入国在留管理庁職員の使命と心得」を策定(R4.1.14付策定)

 「出入国在留管理庁職員の使命と心得」(注1)の内容自体は立派なことが書かれていますが、肝心なのはそれを実践することです。

 同1頁によれば、「我が国に入国・在留する全ての外国人が適正な法的地位を保持することにより,外国人への差別・偏見を無くし,日本人と外国人が互いに信頼し,人権を尊重する共生社会の実現を目指す。」とされています。

 他方で、2021年12月21日に公表された「現行入管法上の問題点」では、在留期間を過ぎて滞在している外国人を「不法残留」と呼び、「不法」という語が繰り返し用いられています。

 「外国人への差別・偏見を無く」すためには、「不法残留」という、差別・偏見を煽るような呼び方をまずは出入国在留管理庁が止めるべきではないでしょうか。

 この点、国連の公式文書では「不法な」という言葉は、常に移民に罪があるような印象を与えるため、「非正規(irregular)」または「証明書を持たない(undocumented)」という用語を使うように、1975年の総会で決議されました(注2)。また、米国バイデン政権でも、2021年に同様の呼称にするよう指示されました(注3)。2021年5月24日、参議院決算委員会でも山添拓議員から、「日本も呼び方を変えるべきじゃないでしょうか。」との呼びかけがありました。

 「心得」を作ったから、それで終わりではありません。実現できてこそ意味があるのです。そして、実現のためには、入国者収容所等視察委員会など、外部の第三者による不断の検証と勧告が必要です。

②名古屋局における組織・運用改革
・医療体制強化
 →非常勤医師の増員(1名→4名)
  救急搬送・バイタル計測マニュアル策定
  新規収容者の健康診断実施等
・被収容者の健康状態等の情報共有体制の構築
 →被収容者の健康状態に関する一覧表を幹部職員と関係職員に共有
  幹部職員と看護師等医療従事者との間の意見交換会の実施
  幹部職員と現場職員との間の定例会の実施等
・看守勤務体制の強化
 →統括入国警備官の交代勤務による閉庁日の勤務体制の強化
  看守勤務者の勤務体制の見直しによる疲労蓄積等の防止

 名古屋局内における組織・運用改革がされたということですが、例えば「救急搬送・バイタル測定マニュアル」は内容が明らかにされておらず、その内容が適切なのかどうか、チェックのしようがありません。それ以外にも、意見交換会を実施とか、定例会を実施とかありますが、会合を開いただけでは何も変わりません。

 内部でこれだけやりました、ということをいくら羅列しても無意味です。前の項目と同様、入国者収容所等視察委員会など、外部の第三者による検証が必要です。

名古屋出入国在留管理局=名古屋市港区

③被収容者の体調等をより正確に把握するための通訳等の活用(R3.9.30付指示)
・庁内又は外部診療時には、原則通訳を手配(緊急時など、手配が間に合わない場合、翻訳機器を活用)
・被収容者からの体調不良の訴えには、翻訳機器を活用(意思疎通困難な場合には通訳手配)

 この令和3年9月30日付指示は、A4・1枚半の文書で(下図参照。情報公開請求により開示されたもの)、緊急の場合は翻訳機器を使うこと、外部医師のときは通訳を利用することという当たり前のことが書かれているに過ぎません。通訳人確保の具体的な方法についても、何も言及がありません。

④収容施設の性質等を踏まえた計画的で着実な医療体制の強化
・医師3名、国際法学者1名、弁護士1名の計5名による有識者会議において、常勤医師の確保等による庁内診療体制の強化、外部医療機関との連携体制の構築・強化等を内容とする提言の取りまとめ

 2022年4月に公表された「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」(注4)では、こう述べられています(19頁)。

 「入管収容施設における医療提供の在り方としては、庁内においては、初期診療に相当する医療を確実に提供し、それ以上の水準の医療を提供する必要が生じた場合には、適時に外部医療機関における診療を実施することにより、被収容者に対する医療を提供していくこととするべきである。」

 しかし、現在も大村入管で大腿骨頭壊死傷の手術を受けられないネパール国籍の男性がいます(注5)。提言にある、「それ以上の水準の医療を提供する必要が生じた場合には、適時に外部医療機関における診療」は、現在も実施されていません。

 この男性に関連して、立憲民主党の鎌田さゆり議員が2022年3月9日の衆議院法務委員会で、「庁内の医師から大学病院の医師に対しての紹介状があるんですけれども、その紹介状には、お忙しいところ、誠に恐縮です、本センターでは、センターというのは、これは大村ですね、本センターでは、一時的収容所で、原則的には根治治療は行わないことにしていますが、保存的加療が可能かどうかを含め、加療方針につき御意見をお願いできればと存じますという紹介状になっているんです。」と質問しています。また、岩波書店「世界 2019年12月号」197頁の座談会でも「入国管理局との契約により完治に向けた治療はしない。」と医師が記載した書類を目撃した旨の証言もあります。

 このような根治治療をしないという入管内医療の基本方針

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