諫早湾が「ギロチン」で閉め切られて25年
2022年05月09日
農林水産省の干拓事業のため、諫早湾(長崎県)が「ギロチン」と呼ばれた鉄板の連鎖的な投下によって閉め切られてから4月14日で25年、四半世紀になった。
今季の有明海のノリ漁は、佐賀県が全体としては東部を中心に生産額で19年連続日本一の見込みの半面、同県西南部は記録的な凶作だった。漁船漁業も壊滅的だ。3月25日、漁民が待ちわびる潮受け堤防排水門の開門の強制執行を許さないという福岡高裁差し戻し審の判決が、追い打ちをかけた。
松本さんの漁場から20キロほどに諫早湾干拓の潮受け堤防の排水門がある。雨が降ると、汚濁水が諫早湾(有明海)に排水される。
松本さんら沿岸の漁師は、この排水が赤潮を引き起こすと見ている。「色落ちする時は、何日か前にあそこ(排水門)ば開けとっとですもんね」。だから、今は排水門から一方的に排水されるだけだが、海水を出し入れする「開門」により調整池は浄化される、と漁民の多くは期待する。
今秋の次のノリ漁季まで、「共済金でつないで、後はバイトかな」と松本さんは話す。
不作に備えて漁業者が支払っている掛け金などによる漁業共済制度から補てんされるのが共済金だ。バイトとは、日当8500円ほどのタマネギの収穫作業だ。
だが、同じ有明海でも東部のノリ漁は好調だった。佐賀県沖有明海の今季のノリの累計販売金額は217億7700万円で19年連続「日本一」の見込みだ。ノリ1枚が100円を超える高級品「有明海一番」を生産した漁場もある。
他方、松本さんの鹿島市支所の生産額は諫早湾の閉め切り後、最も多かった2015年度と比べると、3分の1に満たず、閉め切り後最低だ(鹿島市役所による)。入札で値が付かない「フダなし」のノリもあった。同じ海域に「有明海一番」と「フダなし」が同居する「格差の海」になってしまった。
東部は九州最大の河川である筑後川の河口に近く、栄養塩が豊富だが、西南部には大きな川がない。その面では不利だ。が、松本さんもかつて1枚115円の値が付いた「有明海一番」を採ったことがある。七浦地区の近隣には、湿地を保護するラムサール条約に登録された「肥前鹿島干潟」が広がる。この干潟にはサルボウ(赤貝)などの貝類が豊富で浄化能力が高く、干潟のミネラルなどもノリ養殖に好影響を与えていたと松本さんは言う。
とすると、「凶作」の原因は諫早湾干拓しか考えられない。「諫早湾に近ければ近いほど(ノリの生産高が)悪かやろ」と松本さん。
近年、酸素濃度の低い貧酸素水塊も多発するようになり、サルボウも育たない。ノリと貝の周年操業ができず、ノリに頼るようになっていただけに、今季の凶作はこたえる。
鹿島市の南隣で佐賀県南部の太良町大浦地区のノリ漁師、大鋸武浩さん(52歳)の所属する大浦支所の今季のノリの生産高は支所のノリ漁家5戸全体でわずか約43万円。史上最低だ。
ノリ漁は、タネつけをした網を秋に摘み取る「秋芽」と、タネつけ網を一度冷凍して、厳寒期に摘む「冷凍」の二期作が一般的だ。
今季の大鋸さんは、秋芽は全くとれず、冷凍もわずか。「この4年間で保険(共済金の対象になる不作)が3回たいね」
今季は秋芽の後も赤潮が消えなかったことから、冷凍も期待できないと考え、大鋸さんは支所にノリ網を張らなくても共済金(保険金)がおりるか聞いてみた。
「網ば、張らんでもよかですか」
「網を張らないと、保険はおりません」
そこで、昨年12月28日に張るも案の定、早々に色落ちし、今年1月19日には引き上げた。共済金のために網を張ったも同然だ。
有明海では、支柱を立ててノリ網を張る養殖方法が主流だが、大浦地先は支柱を立てるには深いことから、大鋸さんは海面にノリ網を流す養殖方法「ベタ流し」が中心だ。四六時中海中につかっているために硬いが、黒く味がいいノリがとれる。品評会で1位をとったこともある。
大鋸さんも夏場はアサリ漁をしていた。だが2004年に全滅、
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