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戦争の記憶が眠る「群馬の森」に、朝鮮人犠牲者追悼碑を見に行った

設置継続を認めない高裁判決、最高裁は見直しを

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

連休の一日、群馬県へ

 高崎駅でタクシーを拾い青々とした麦畑の中を20分ほど走る。麦畑の果てに見える山が白く雪をかぶっていた。前日は冷たい雨が降っていたが、山は雪で、谷川岳や浅間山は連休へ入ってから雪化粧することになったと、タクシーの運転手さんから聞いた。

 県立公園である「群馬の森」は入場無料。入口は栃の木が並木を作っている。円錐状に伸びる栃の花の盛りだ。入口の守衛所で「追悼碑のあった場所はどのあたりか分かりますか」と尋ねてみると守衛さんが「追悼碑ならまだありますよ。公園の奥のほうですから、ずっと奥へと進めばいいんです」と丁寧に教えてくれた。

 園内に入るとすぐに芝生広場があり左に近代美術館と歴史博物館があるので、その前を通り過ぎたら左の道をたどって行けばすぐに分かりますと、パンフレットの地図に印をつけてもらった。芝生広場では前の日に冷たい雨が降る中で群馬交響楽団の演奏会が開かれたという話になり「なかなかいいものでしたよ」と守衛さんが言う。冷たい雨の中でも演奏会は盛況だったようだ。

拡大高さ4.5メートルのブロンズ像「巨きな馬」。奥に群馬県立の近代美術館と歴史博物館が並ぶ=群馬県高崎市、筆者撮影
 明るい芝生広場を抜け、休館中の群馬県立近代美術館前のエミール=アントワーヌ・ブールデル作「巨きな馬」ブロンズ像を眺めながら森の中へ入って行く。

 鬱蒼(うっそう)とした森だった。

 芝生広場の明るさと森の暗さがコントラストをなしている。守衛所でもらったパンフレットにはシラカシ、クヌギ、オニグルミ、エノキ、コナラなどの樹木が紹介されていたが、目立つのは堂々とした幹を持つクロマツであり、高々と伸びたスギだった。

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筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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