交通弱者、ストロー現象、災害時の懸念をどうするのか
2022年05月23日
「北海道に新幹線はいらないのでは」。北海道新幹線の札幌延伸にともない、並行在来線が廃止される方針との報道を耳にしての正直な感想である。
仮に在来線廃止が行われたとするならば、地域の衰退はさらに加速するであろう。明らかに、地域住民の交通弱者を切り捨てる新自由主義的な決定だと言わざるを得ない。
本稿は、北海道新幹線とその並行在来線についての論考である。ただし、根を同じくする問題は、日本中に広がりかねない状況にある。JR西日本は4月、コロナ禍のもと新幹線や都市部の路線の利益が減り、ローカル線の維持が難しいとして、路線ごとの収支を北海道、四国、九州の3社に続いて公表した。東日本も公表を検討するという。
地域の足を切り捨てるのか、守るのか。当該地域のみに任せず、国民的な議論を広げる必要がある。
これまで整備新幹線の並行在来線が廃止された例は、1997年、長野新幹線(当時)の高崎-長野間が開業した際の信越本線横川-軽井沢間があるのみである。同区間は、交通の難所であった碓氷峠を越える区間であり、約11キロと比較短い。長万部-小樽間のように140キロあまりの並行在来線の長距離区間が廃止されるのは初めてのことだという。
しかし、代わりにバスが走れば済む問題だとは、とうてい思えない。
地方の鉄道の利用者の多くは、通学に利用する高校生や、通院に利用する高齢者など、運転免許や自家用車を所持していない、いわゆる「交通弱者」である。筆者が育った北海道では鉄道を使って通学することを「汽車通学」というが、「汽車通学」の高校生にとって、鉄路がなくなることによる影響は、甚しく大きい。
なぜならば、北海道の場合、冬期間は雪の影響で、バスの所要時間は夏季よりも長くなる。これは、季節による所要時間の変動がほとんどない鉄道の場合と事情が異なる。したがって、バス転換がなされると、いままで通えていた高校に自宅から通いにくくなる人が増えることは明白である。
たとえば、今回、鉄路が廃止される見込みだという余市駅から札幌市内に向かおうとすると、始発は朝6時10分発。これに乗れば、小樽駅で札幌駅方面に接続が可能で、札幌駅には朝7時25分に到着する。札幌市内の高校への通学は可能である。仮にバス転換がされたとしたら、より所要時間がかかる冬ダイヤでこれと同じ乗り継ぎが可能であるという保障はない。地方在住の生徒・学生の進路がより狭くなることにならないのか、政府はもちろん、自治体もJRも十分に説明できていない。
こうした状況を危惧するのは、決して筆者だけではない。およそ30年前に起きた、ローカル線の廃止反対を訴える生徒会運動について、当時の経緯をよく知っているという道内の高校教諭に話を聞いた。
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