地域の足を守るのか、切り捨てるのか~国民的議論が必要だ
2022年05月24日
(上)では、在来線の廃止がもたらす問題点は、「交通弱者」の足がなくなること、ストロー現象にともない富が大都市や大企業に流出すること、災害時に代替の交通手段を確保できなくなる懸念があることを指摘した。(下)では、並行在来線廃止問題の背後にある、公益性より採算を重視する政府の方針について掘り下げて考えていく。
筆者は高校卒業までの18年間を北海道で過ごしてきた。北海道新幹線(新青森ー新函館北斗駅間)が開通したのはちょうど高校3年生のときだった。当時を振り返れば、北海道在住当時、マスコミや自治体は北海道新幹線を大々的に宣伝していた記憶がある。しかしその「影」の部分は、ほとんど黙殺されてきたに等しい。
もし当時、「新幹線開業と同時に在来線が廃止される可能性があります」といった議論があったとしたら……。旭川市内の高校に通っていた筆者には、当時、名寄市、富良野市など周辺自治体から通学する友人が複数いた。彼ら/彼女らと、この問題について話し合った記憶はないが、「並行区間を新幹線が通るから、毎日の通学の足がなくなる」という議論が紹介されていれば、衝撃を受けていたに違いないだろうと筆者は考えている。
実際に、道の「北海道新幹線に関するQ&A」には、北海道新幹線開通によるメリットを多数あげながらも、並行在来線が廃止される可能性については「経営分離される予定」とするだけで詳しく説明されていない。
整備新幹線が開業した後、新幹線に加えて並行する在来線を経営することはJRにとって過重な負担となる場合があるため、政府・与党で決めている整備新幹線の整備スキーム(政府・与党申合せ)では、新たに新幹線を着工する区間の並行在来線については、その新幹線の開業時にJRの経営から分離されることになっています。(…中略…)新函館北斗・札幌間が開業すると、JR函館線の函館・小樽間が並行在来線となり、JR北海道から経営分離される予定となっています。(注4)
これらの文言は、国土交通省の政務三役で構成される「整備新幹線問題検討会議」によって検討された文章と瓜二つである。そこでは「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」が、新幹線着工の条件とされてきた(注5)。そして実際に、延伸決定時に地元自治体は経営分離に同意してきた。
「北海道新幹線に関するQ&A」によると、2015年の「政府・与党申し合わせ」において、2030年度末には札幌までの開業をめざすことが決められていたという。
その際、「我が町には新幹線の駅も建設されないし、経営分離といっても並行在来線を支える予算がない。このままでは鉄路がなくなってしまう」といった声が沸き起こることをどれだけ想定していたのだろうか。また、もしこれらの声によって「同意」を得るのが難しい場合、どのように対応するつもりだったのか。疑問に感じざるをえない。
政府は、経営分離への「同意」を盾に
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