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北海道新幹線は人々を幸せにしない 矛盾だらけの新幹線計画(下)

地域の足を守るのか、切り捨てるのか~国民的議論が必要だ

田中駿介 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

 (上)では、在来線の廃止がもたらす問題点は、「交通弱者」の足がなくなること、ストロー現象にともない富が大都市や大企業に流出すること、災害時に代替の交通手段を確保できなくなる懸念があることを指摘した。(下)では、並行在来線廃止問題の背後にある、公益性より採算を重視する政府の方針について掘り下げて考えていく。

宣伝された「光」、黙殺された「影」

北海道新幹線=2021年1月5日、北海道木古内町

 筆者は高校卒業までの18年間を北海道で過ごしてきた。北海道新幹線(新青森ー新函館北斗駅間)が開通したのはちょうど高校3年生のときだった。当時を振り返れば、北海道在住当時、マスコミや自治体は北海道新幹線を大々的に宣伝していた記憶がある。しかしその「影」の部分は、ほとんど黙殺されてきたに等しい。

 もし当時、「新幹線開業と同時に在来線が廃止される可能性があります」といった議論があったとしたら……。旭川市内の高校に通っていた筆者には、当時、名寄市、富良野市など周辺自治体から通学する友人が複数いた。彼ら/彼女らと、この問題について話し合った記憶はないが、「並行区間を新幹線が通るから、毎日の通学の足がなくなる」という議論が紹介されていれば、衝撃を受けていたに違いないだろうと筆者は考えている。

 実際に、道の「北海道新幹線に関するQ&A」には、北海道新幹線開通によるメリットを多数あげながらも、並行在来線が廃止される可能性については「経営分離される予定」とするだけで詳しく説明されていない。

 整備新幹線が開業した後、新幹線に加えて並行する在来線を経営することはJRにとって過重な負担となる場合があるため、政府・与党で決めている整備新幹線の整備スキーム(政府・与党申合せ)では、新たに新幹線を着工する区間の並行在来線については、その新幹線の開業時にJRの経営から分離されることになっています。(…中略…)新函館北斗・札幌間が開業すると、JR函館線の函館・小樽間が並行在来線となり、JR北海道から経営分離される予定となっています。(注4)

廃止、バス転換が決まった函館線。余市駅から小樽方面に向かう線路=2022年4月5日、北海道余市町

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もしも同意を得られなかったら?~議論が先走っていなかったか

 これらの文言は、国土交通省の政務三役で構成される「整備新幹線問題検討会議」によって検討された文章と瓜二つである。そこでは「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」が、新幹線着工の条件とされてきた(注5)。そして実際に、延伸決定時に地元自治体は経営分離に同意してきた。

廃止、バス転換が決まった函館線の余市駅=2022年4月5日、北海道余市町
 しかし、沿線自治体の同意を得られるという前提に立ち、先走って議論をすすめてきた感は否めない。

 「北海道新幹線に関するQ&A」によると、2015年の「政府・与党申し合わせ」において、2030年度末には札幌までの開業をめざすことが決められていたという。

 その際、「我が町には新幹線の駅も建設されないし、経営分離といっても並行在来線を支える予算がない。このままでは鉄路がなくなってしまう」といった声が沸き起こることをどれだけ想定していたのだろうか。また、もしこれらの声によって「同意」を得るのが難しい場合、どのように対応するつもりだったのか。疑問に感じざるをえない。

「ローカル線もなくなりません」の広告はなんだったのか

 政府は、経営分離への「同意」を盾に

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