メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

4630万円誤送金問題 町の実名公表、警察の逮捕、メディアの犯罪視報道の「異常」

「ケシカラン輩は処罰されるのが当然」では罪刑法定主義は成立しない

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

 山口県阿武町が新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って1世帯に振り込んだ問題は、2月23日のロシアのウクライナ侵攻以来、テレビのニュース、ワイドショーを埋め尽くしていたウクライナ関連の話題を凌ぐほど注目され、連日、報道され続けた。そして、常識的な法解釈からは犯罪が成立しないと思える「電子計算機使用詐欺罪」で誤振込口座名義人の町民が逮捕されるという異常事態まで引き起こした。

4300万円は返金されたが……

 4月15日、花田憲彦阿武町長が記者会見を開いて公金誤振込の事実を明らかにし、4月22日に、誤振込を受けた町民から返還を拒否されていることが公表された時点から、全国紙での報道が始まった。5月12日に同町が「不当利得返還等請求訴訟」の提訴を行った時点からは、テレビのワイドショー等でも連日取り上げられるようになった。

 その後、阿武町は、誤振込を受けたT氏の住所と氏名をネットで一般公開した。

 5月16日、T氏の代理人弁護士が、誤振込金の使途がオンラインカジノであること、口座残金は6万8000円あまりであることを公表した。

 5月18日、山口県警萩署が、T氏を電子計算機使用詐欺罪で逮捕、翌19日、山口地検に送致され、検察官が同罪で勾留を請求し、10日間の勾留が決定されている。

 そして、5月24日、オンラインカジノの決済代行業者から約4300万円が返還されたことを、花田町長と中山修身弁護士が記者会見で明らかにした。

 代理人弁護士の説明によると、阿武町は、国税徴収法と地方税法を駆使しながら具体的な回収作業を行い、T氏と決済代行業者3社が委任関係にあると判断し、業者の口座をT氏自身のものとみなして預金の差し押さえ手続きを進め、T氏本人に対しても、誤振込金全額と弁護士費用を返還するよう求める訴訟を起こしたところ、誤振込分についてはT氏側が請求を認諾し、決済代行業者から阿武町に約4300万円の返金が行われたという。

報道陣の取材に対して話す花田憲彦町長(右)=2022年5月17日、山口県阿武町役場拡大報道陣の取材に応じる花田憲彦町長(右)=2022年5月17日、山口県阿武町役場

>>関連記事はこちら

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

郷原信郎

郷原信郎(ごうはら・のぶお) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

郷原信郎の記事

もっと見る