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「ナナメの関係」で運営される「子ども食堂」の進化系~元ホストの代表にその極意を聞く

家でも学校でもない「第三の場所」の構築が必要

西郷南海子 教育学者

 今回の記事は、京都市左京区の養正地域にある子ども食堂を取材したものである。

 子ども食堂とは、無料または低価格で子どもに食事を提供することを目的とする活動を指し、「子どもの貧困」への理解の深まりと同時に全国に普及してきた。現在全国で6000カ所もの広がりを見せている1)

 ただし、課題も多い。たとえば、多くの子ども食堂は、ボランティアによって開催されているが、その頻度は月に1度であることが多い2)。その場合、子どもの空腹を日常的に満たすことは叶わない。また、「子ども食堂」が貧困世帯の子どもを対象とする場合、「子ども食堂」に足を運ぶこと自体が、貧困のレッテル貼りになってしまう。こうしたジレンマを抱えつつ、子ども食堂はどのような方向に発展しつつあるのだろうか。

小林光長氏小林光長氏
 筆者が今回訪問した「京都Tera.Coya」(てらこや)は、いくつもの観点から「進化系」と言える特徴を持っている。食事の提供は、あくまでも子どもと会うツールに過ぎないと位置づけ、主には、子どもとスタッフである大学生・若い社会人が「ナナメの関係」を構築することを重視している。その「ナナメの関係」の中で、子どもは勉強や生活上の困りごとを相談したりすることができる。

 たとえば、性暴力被害に遭いそうになっている女子高生がスタッフに連絡をし、スタッフが救出に向かったこともあるという。これは親や教師でもなく、友人でもない、「ナナメの関係」だからこそ可能だった事例だと言える。また、コロナ禍によって子どもたちの人間関係は、かつてなく狭く絞り込まれており、今日「ナナメの関係」はますます貴重なものである。

 こうした「ナナメの関係」の継続と発展を大切にするTera.Coyaが、どのように運営されているのか、また今後どのような展開を目指しているのか、代表の小林光長氏にインタビューを行った(インタビュー日時2022年5月28日)。

〈こばやし・みつなが〉 1983年、長野県生まれ。中学時代から非行を繰り返し、少年院で長期間過ごす。退所の時に恩師に「ハル」と名付けてもらい、歌舞伎町のホストクラブで働くときも、その名前「羽流」を用いた。花園大学に再入学後、ボランティア活動を開始。社会福祉士の資格を取得。子ども食堂の子どもたちにも「ハルさん」と親しまれている。

運営のノウハウを伝え持続可能にしたい

西郷  どのように、Tera.Coyaを立ち上げ、運営してきましたか。

小林氏 2017年8月に大学の仲間3人と立ち上げました。大学に入り直し、学びなおす中で、大学生と子どもの「ナナメの関係」が必要だと思うようになりました。ただ、継続的な活動をするには、大学生の流動性を克服するシステム(人材の安定)を作る必要があります。なぜなら、人材が他の要素、つまり活動の頻度や内容も決めているからです。

西郷  開始前にすでにそこまで考えていたのですね。

小林氏 子ども食堂は週一でも足りません。そこで、プライベートな相談を平日も受けています。たとえば性的な問題もナナメの関係だからこそ話せるということがあります。大学生には、助成金のとり方を含め、運営のノウハウを伝えて、今後どの地域でもいいので、人生のどこかで、子ども食堂を開けるようにと考えています。

西郷  かなり具体的ですね。

小林氏 今は週一ですが、望ましいのは、毎日子どもの受け入れを可能にすることです。現在、飲食店の一部を子ども食堂にするというのも行われています。ただ、その場合、食事以外の子どものケア機能が十分に果たせるかが課題です。

西郷  では、ここの運営費用はどのようにまかなっていますか。

小林氏 主には京都府の助成金と寄付で運営しています。駄菓子などどうしても用意したかったものは、最初は実費で買っていました。

スタッフのミーティング風景スタッフのミーティング風景

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大切なのは「ワクワク感」

西郷  実はわたしの子どもも、Tera.Coyaにお世話になっています。いつの間にか友達同士で行くようになっていて、後からそれが子ども食堂だったのだと知りました。子どもが誘い合って行くような場の運営者として、特に大切にしていることは何ですか。

小林氏 子どもも大人も、楽しいことに集まります。ゲームなどの瞬間的な楽しさだけでなく、ワクワク感と「ああ楽しかった」という気持ち。また来たいと思ってもらえるためには、年齢の近いお兄さん・お姉さんがスタッフをやっているということや、子どもを子ども扱いしないということも大切です。

穴の開いた障子穴の開いた障子
西郷  今の学校がそうですが、子どもの行動があらかじめ細かく決められていると、子どもの考える力が育たないのではと心配です。特にコロナ禍でルールにがんじがらめになりました。

小林氏 Tera.Coyaは家でも学校でもない、「第三の場所」です。だから、たとえば、ムシャクシャした時は障子を破ってもいいんです。人間だからいろんな感情があるのは当然です。その後一緒に張り替えればいいんです。

西郷  なるほど…。そうやって、子どもが自分の感情に気付けることは大切ですよね。家では、余裕がなくてそこまでしてあげられないことが多いと思います。

小林氏 ここでは、初めから禁止していることはありません。その場その場で大人が関わっていきます。その大人の価値観も多様です。まずは安全に自由に、その子らしく活動できればと思います。

コロナで「つながりの貧困」が生じるのはまずい

西郷  たくさんの子どもたちがハルさんにくっついていて、幸せそうです。子どもには「密」が必要ですよね。

「専務」の中1男子。トランシーバーを装着し、館内を見回る「専務」の中1男子。トランシーバーを装着し、館内を見回る
小林氏 今は、知らない大人とは関われない世の中です。学校や塾など用意された場所でしかつながれません。関われる大人が少ないと、子どもの選択肢の幅が狭まってしまいます。

西郷  今は知らない大人が子どもに声をかけると、即「不審者」扱いになりますね。コロナの間はどうされていましたか?

小林氏 緊急事態宣言の時は、この会館が使えませんでした。でも会館の前で食事を配りました。コロナだから活動停止という選択肢はなかったです。それでも、週一の弁当に何の意味があるのかと自問自答しました。こんなことでは貧困は解決できない。でも、「つながりの貧困」なら、なんとかなるかもしれない。それが、将来の選択肢の幅を広げるのです。食事も勉強もコミュニケーションのツールです。「支援します」というのは好きじゃない。

※こうして話している間にも、子どもたちが周りを走り回り、その足音で小林氏の声が聞こえないほどである。中には、わたしの取材に興味を持って、パソコンをのぞき込む子どももいる。

地域のコミュニケーションの起点になりたい

西郷  先ほど、子どもを子ども扱いしないというお話がありました。具体的にはどんなことが挙げられますか。

小林氏 ここでは「テラコイン」(TC)という、この建物の中だけで使える地域通貨があります。たとえば

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