橋本倫史(はしもと・ともふみ) ノンフィクションライター
1982年、広島県東広島市生まれ。著書に『ドライブイン探訪』『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場の人々』『東京の古本屋』。最新刊は『水納島再訪』(講談社)。琉球新報にて「まちぐゎーひと巡り」、JTAの機内誌『Coralway』で「家族の店」を連載中。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
復帰50年―那覇の市場から④
那覇の市場界隈には、いたるところにアーケードが張り巡らされている。このアーケードが整備されたのは、1970年代に入ってからのこと。きっかけとなったのは、ダイエーが那覇に進出する計画が持ち上がったことだった。
全国チェーンのスーパーマーケットがオープンすると、これまで商店街に足を運んでくれたお客さんを奪われてしまうのではないか――スーパーマーケットが全国各地に増えていった時代には、そうした声が全国各地であがり、スーパーマーケット建設への反対運動も巻き起こっている。
沖映通りにダイエーが「那覇ショッパーズプラザ」をオープンしたときにも、顧客が奪われるのではないかと、市場界隈の店主たちは危惧したという話をよく耳にする。どうにか顧客を繋ぎとめようと、店主たちは資金を出し合い、アーケードの整備を進めてゆく。
アーケードがあるおかげで、強い陽射しも急な雨も気にせず、買い物客や観光客はのんびり界隈を散策することができる。市場界隈の取材を始めてからは、毎月那覇に足を運び、昼間はずっとアーケードの下をぐるぐる歩き続けてきた。だから、たまにレンタカーを借りてアーケードの外に出てみると、細い路地が張り巡らされている市場界隈との違いにくらくらする。そこには広々とした道路があり、青い海が広がり、太陽が照りつけている。
今では各地にショッピングセンターがあり、広大な無料駐車場がある。那覇から名護までは高速道路が整備されており、西海岸にはリゾートホテルが建ち並んでいる。どれもこれも、市場界隈で目にする風景とは対照的に感じられる。
レンタカーを走らせて向かう先は、大抵の場合水納島(みんなじま)だった。
水納島とは、沖縄本島北部の本部半島沖にある小さな島だ。三日月のような形をしていることから「クロワッサン・アイランド」の愛称でも知られ、美しい海と砂浜が広がっている。美ら海水族館にもほど近い渡久地港から定期船で15分の距離にあり、1時間もあれば歩いて一周できる、絵に描いたような南の島である。ビーチでは各種マリンアクティビティを楽しめることもあって、年間7万人近い観光客で賑わう。