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沖縄2022 人口の急増と急減、水納島の戦後に日本が重なる

那覇の市場から⑤

橋本倫史 ノンフィクションライター

沖縄との縁の始まり『cocoon』

 『cocoon』という作品がある。ひめゆり学徒隊に着想を得て、漫画家の今日マチ子さんが描いた作品だ。僕が沖縄に通うきっかけとなったのは、2013年にこの作品がマームとジプシーという演劇カンパニーによって舞台化されることになったことにある。

 上演に先駆けて、出演者やスタッフが沖縄を訪れると聞き、僕もその旅に同行した。

 旅の初日は6月23日。その日は沖縄で組織的な戦闘が終結した「慰霊の日」で、激戦地となった糸満市摩文仁にある平和祈念公園では、戦没者を追悼する式典が開催されている。

沖縄全戦没者追悼式で、手を合わせる人たち=2013年6月23日、沖縄県糸満市の平和祈念公園
 公園には大勢の参列者がいて、戦没者の名前が刻まれた平和の礎の前には、故人の名前を手でなぞりながら涙を流す方の姿もあった。式典が終わったあとには、公園に広がる芝生の上にシートを広げてお弁当を食べている家族の姿をあちこちで見かけた。今も家族数世代で、戦争で命を落とした方のことを悼んでいる。

 その光景が印象に残り、少しずつ沖縄に足を運ぶようになった。

マームとジプシー『cocoon』は2022年夏、全国で上演される。

原作:今日マチ子
 (「cocoon」秋田書店)
作・演出:藤田貴大
  音楽:原田郁子

【公演日程】
東京:7月9~17日、東京芸術劇場 プレイハウス

長野:7月23~24日、上田市・サントミューゼ小ホール

京都:7月30、31日、京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学内)

愛知:8月6、7日、豊橋市・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

福岡:8月14日、北九州芸術劇場 中劇場

沖縄:8月20、21日、那覇文化芸術劇場 なはーと 小劇場

埼玉:9月2~4日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

北海道:9月17日、伊達市・だて歴史の杜カルチャーセンター
    9月23日、士別市・あさひサンライズホール

詳しくは公式サイト
マームとジプシー『cocoon』、2015年の再演の舞台

水納島の戦後、やってきた米軍と帰還した人たち

 沖縄で地上戦が始まったのは、今から77年前の春だ。1944年の夏にサイパンが陥落すると、沖縄にも米軍が上陸してくることを想定し、各地に日本の部隊が駐屯し、住民を巻き込んで激しい戦闘が繰り広げられてゆく。

 しかし、沖縄の離島である水納島(みんなじま)には――隣の瀬底島から移り住んだ人たちが開拓したという意味では、沖縄本島から見ると、離島のさらに離島だとも言える水納島には――日本軍は駐屯していなかった。それどころか、昭和7(1932)年に水納島に生まれた与那嶺トシさんによると、水納島にあった分教場にも御真影は飾られていたものの、それを拝むようにと先生から命じられることもなかったという。周縁に位置する水納島にまでは、軍国主義は及んでいなかったのだろうか。あるいは、中心からはほとんど認識されていなかったのだろうか――。

 そんな水納島にも、米軍は上陸してきた。日本の部隊が駐屯していないことは把握済みだったのだろう、4月12日の早朝、米軍は特に銃弾を撃つこともなく、静かに上陸してきたという。当時小学3年生だったトシさんは、米軍が上陸してきた日も島に残っていて、アダンの茂みに身を潜めていた。

 「あの当時はラジオもなくて、いつ戦争が終わったというのもわからなかった」とトシさんは振り返る。

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