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「娯楽化」される差別のありようが問われた「ニュース女子」裁判

「在日の出自に着目した誹謗中傷を招きかねない」番組と認めた高裁判決

北野隆一 朝日新聞編集委員

 「主文1 本件各控訴をいずれも棄却する」「以下、要旨を述べます」

 6月3日午後2時すぎ、東京高裁822号法廷。辛淑玉(シン・スゴ)さんは、15分ほどの判決言い渡しの間、判決要旨を読み上げる渡部勇次裁判長の顔をずっと見つめていた。

 辛さんは在日コリアン3世で、人権団体「のりこえねっと」共同代表。同じ日の午後5時から東京都内で開かれた記者会見で、判決時の心情について聞かれると、しばらく言葉をつまらせ、考え込んだ後、こう答えた。

 「裁判官を見つめていたのは、自分にとっての試練だと思ったからです。私が私らしく生きたいというとき、日本社会で受けなければいけない試練。目をそらしてはいけない、耳をそらしてはいけないと思いました」

 東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX=MXテレビ)の番組「ニュース女子」で沖縄の米軍基地反対運動をとりあげた回が2017年1月に放送されてから5年余。番組をめぐって何が争われ、裁判所や第三者機関では、どのような事実が認定されたか。辛さんが「長い闘い」と表現したこの間の経緯をたどる。

2017年1月2日放送「ニュース女子」の画面から拡大2017年1月2日放送「ニュース女子」の画面から

沖縄の基地反対運動を「暴力行為」と紹介

 裁判の判決や、第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の「意見」や「勧告」によると、「ニュース女子」は東京新聞と中日新聞の論説副主幹だった長谷川幸洋氏が司会を務め、ニュースと時事問題を論じるトークバラエティー番組。大手化粧品会社DHCの子会社であるDHCシアター(2017年3月末にDHCテレビジョンへと社名変更)が制作した。東京ローカルの地上波テレビ局であるMXテレビなどで2015年から放送が始まった。

 問題とされた番組は2017年1月2日の冒頭19分間、「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄県東村高江地区の米軍北部訓練場で進められたヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設に反対する運動について紹介。さらに翌週の1月9日、冒頭の7分間で2日の番組の反響を紹介した。

 1月2日の放送では、軍事ジャーナリストの井上和彦氏が現地取材の報告として、「高江ヘリパッドの建設現場で過激な反対運動が行われている」などと話した。地元住民へのインタビューを交え、「反対派の暴力行為により、地元の住民でさえ高江に近寄れない」「過激派が救急車も止めた?」「防衛局、機動隊員の人が暴力を振るわれている」などとする内容の発言やナレーション、テロップを放送した。

 東京で配られたチラシや普天間基地周辺で発見された封筒などを紹介し「反対派デモの人達は何らかの組織に雇われているのか」「反対派は日当を貰っている!?」とのナレーションやテロップを紹介。「『のりこえねっと』〝辛淑玉〟は何者?」「反対運動を扇動する黒幕の正体は?」などとテロップが表示され、司会の長谷川氏が「5万円日当出すなんて、これは誰が出しているの」と問いかけたのに対し、ジャーナリストの須田慎一郎氏が「この辛さんっていうのは、在日韓国・朝鮮人の差別と言うことに関してたたかってきた中では、カリスマなんですよ」などと説明している。

「ニュース女子」長谷川幸洋・論説副主幹が出演していたことをめぐって、論説主幹名で読者へのおわびを掲載した2017年2月2日付東京新聞朝刊拡大「ニュース女子」長谷川幸洋・論説副主幹が出演していたことをめぐって、論説主幹名で読者へのおわびを掲載した2017年2月2日付東京新聞朝刊
 放送3日後の1月5日、辛さんが共同代表を務める「のりこえねっと」は抗議声明を発表。20日にはMXテレビに抗議文を送った。1月31日には長谷川氏の勤務先だった中日新聞社に抗議文を提出した。

 これに対し中日新聞と、中日新聞社が発行する東京新聞は、いずれも2月2日付朝刊に深田実・論説主幹名の文章を掲載。「事実に基づかない論評が含まれており到底同意できない」「偏見を助長して沖縄の人々の心情、立場をより深く傷つけ、また基地問題が歪めて伝えられ皆で真摯に議論する機会が失われかねない」「他メディアで起きたことではあっても責任と反省を深く感じています。とりわけ副主幹が出演したことは重く受け止め、対処します」「読者の方々に心配をおかけし、おわびします」と謝罪した。

 長谷川氏は3月1日付で論説委員に降格となり、2018年3月末に中日新聞社を定年退職した。

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筆者

北野隆一

北野隆一(きたの・りゅういち) 朝日新聞編集委員

1967年生まれ。北朝鮮拉致問題やハンセン病、水俣病、皇室などを取材。新潟、宮崎・延岡、北九州、熊本に赴任し、東京社会部デスクを経験。単著に『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』。共著に『私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』『祈りの旅 天皇皇后、被災地への想い』『徹底検証 日本の右傾化』など。【ツイッター】@R_KitanoR

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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