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『岸辺のアルバム』の名プロデュ―サーを偲んだ

[5月19日~5月27日]堀川とんこうさんを偲ぶ会、甲状腺がん訴訟口頭弁論……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

5月19日(木) 午前11時から局で8月の戦争特集企画会議。14時から気鋭の演出家・倉持裕の舞台『お勢、断行』をみる。おもしろい。こういう破滅モノは嫌いではない。黒光りする悪が主役として舞台に登場することがある。井上ひさし原作の『藪原検校』はその代表だが、この舞台のお勢は、そこまでの悪党ぶりに届いていない。僕はむしろ女中役の江口のりこの存在感に魅力を感じた。

 夜、旧『23』時代の仲間3人と会食。去年11月に出した『筑紫哲也──『NEWS23』とその時代』に書かれていることを、体で知っている人たちだ。だから余計な説明をする必要がない。だが、時代は変わった。受け継がれるべきものは受け継がれ損なった。野田秀樹の劇中の台詞を思い出す。「頭をあげろ!」。

5月20日(金) 昨夜のアルコールをきっちり抜くためにプールへ行きがっつり泳ぐ。ストレス解消もかねて、泳ぎすぎた。体重が2キロ以上減っていた。

 赤坂の局の近所にある唯一の書店、文教堂書店赤坂店が来月17日で閉店することを知ってショックを受ける。この近辺に本屋さんがなくなる。

6月17日閉店の文教堂赤坂店6月17日閉店の文教堂赤坂店=撮影・筆者

 夜、PARC=アジア太平洋資料センターからお声がけをいただいていたオンライン講座『体験的“公文書”報道論』。90分ではとても足りない。森友公文書改ざん破棄事件をめぐって、赤木俊夫さんが命がけで残していた「赤木ファイル」の実物を提示しての解説、沖縄返還をめぐる日米間の密約文書、米国立公文書館で奇跡的に発見された歴代天皇の直筆文書などを示しながらの講義。本当はそれぞれで90分ずつ話せる内容なのだが、まあ今回は「公文書は市民の共有財産だ」という共通認識を持つことが第一義なので、良しとするべしか。公文書資料がオーラを放っているような感覚。わかるかなあ。

『パイナップル ツアーズ』のパワーと躍動感

5月21日(土) 代島治彦さんからお声がけをいただいた映画『パイナップル ツアーズ』の上映後トークに参加する。この映画がつくられたのが何と1992年だとは。僕はその当時モスクワに暮らしていた。だから第1次沖縄ブームに先駆けて作られたというこの映画をリアルタイムでみていない。それにしてもこのパワー、躍動感。その後の第1次ブームで『ナビィの恋』を手掛けた中江裕司監督ら琉球大映画研究会などに集っていた3人の監督が、オムニバス風に3つのエピソードをつなぐ。照屋林助とか平良とみが実に魅力的だ。みんな故人になってしまったけれど。

『パイナップル ツアーズ』『パイナップル ツアーズ』は、今見てもとても面白いよ=筆者提供
 スクリーン上の林助さんの姿をみていて、はるか昔に、コザの照屋楽器店の2階にミニスタジオがあった旧店舗の頃、照屋林助さんと息子の照屋林賢さんらのお宅で開かれた旧盆の宴会に僕らTBSの取材クルーが紛れ込んで、お酒を酌み交わした記憶が蘇ってきた。いい時代だった。一人一人歌えと林助さんに言われて、確かTBSクルーの中からVEさんが「荒城の月」かなんかを歌ったような記憶があるのだけれど。

 『報道特集』の生放送。前半が、コロナ禍が長期化する中で、マスクを着けることの影響が子どもたちの成長にもさまざまな影響が出ていることなどに着目した、本当に久しぶりのコロナ禍報道。

 後半の特集は、近く第1回の口頭弁論が行われる対東電・甲状腺がん損害賠償請求訴訟をめぐる原告の訴えの内容を取材した特集。ウクライナ侵攻前から力を入れてNディレクターとともに取材をしていたものだ。原告たち6人は、<3・11>当時、いずれも子ども時代にあった若者たちだ。甲状腺がん罹患の事実について、原告たちは、狭い地域社会のなかで周囲には隠しながら、悩みに悩み続けてきたという。

 彼ら彼女らは、すでに甲状腺を片側切除、両方とも切除といった手術を受けている。投薬や治療は一生これからも続く。ある意味で、福島第一原発事故によって人生が一変した人々だ。提訴の際に、僕は原告の6人のうちの一人と直接言葉を交わす機会があった。不条理な現実の一端に言葉を失いかけた記憶がある。放送した後、厳粛な気持ちになる。その後、別件で不条理な展開。

道新記者逮捕事件のシンポジウムに参加する

5月22日(日) 早朝5時40分から『TBSレビュー』の2回目をみる。畏友・秋山浩之プロデューサーの仕掛け。テレビ史の中の筑紫哲也像を扱ってくれたことに、ただただ感謝するのみ。

「TBSレビュー」より 早起きした筆者撮影吉岡忍さん(右)と筆者=『TBSレビュー』より、 早起きした筆者撮影

『TBSレビュー』より= 早起きした筆者撮影筑紫哲也さん=同
同立花隆さん=同

札幌で開かれた新聞労連主催の「取材の自由」を考えるフォーラム 札幌で開かれた新聞労連主催の「取材の自由」を考えるフォーラム =撮影・筆者
 朝の便で北海道の千歳空港へ。新聞労連主催のシンポジウムで、旭川医大構内で取材中だった道新記者が建造物侵入容疑で逮捕(常人逮捕)され送検された事件をめぐるパネル・ディスカッションに参加する。

 事件の地元が僕の生まれ故郷の旭川市であること、コロナ禍のさなか、旭川市内の病院でクラスターが相次いで発生した際、旭川医大の学長が患者受け容れを排除する旨の不適切な発言を行って批判を浴びていたことなど、この出来事の背景はさまざまな要素が絡まっている。旧知のジャーナリスト臺宏士さんもいた。労組の方が実に熱心に準備をしていて、かつ実情を把握されていた。道新の対応が、狭い意味での「組織防衛」に陥っていたことを指摘せざるを得ない。

 シンポジウムの会場が、僕が小学生時代を過ごした琴似町のそばで、すっかり変わり果てた街並みをみながら、タクシーの車窓からひとり感慨に浸っていた。何やってんだか。シンポジウム会場で旧知の元HBCのOさんと再会した。お元気そうでよかった。

 シンポジウムの出番終了後に、別室に移って、日本メディア学会の部会の沖縄「復帰」50周年にちなんだ連続研究会の3回目。沖縄の地元雑誌『越境広場』の編集者であり、地元に根をおろした言論人・仲里効さんを講師にお招きしての勉強会に参加する。いわゆる「反復帰論」の再読作業をしているような感覚に陥ったことは確かだが、そこにこれからの若い世代に向けての希望、夢が宿っているような気持ちがした。連続研究会、やってよかった。

 バイデン米大統領来日。それにしても、なぜ米大統領はこのところ横田基地から日本に入って来るのがお決まりになってしまったのか。

5月23日(月) 朝の便で東京に戻る。きのうのシンポジウムのことが北海道新聞に小さいながら記事になって掲載されていた。行動して声を上げれば必ず無駄にはならない何事かが起こると信じる。

 日米首脳会談後の記者会見をライブでみる。質疑の最初の質問が「台湾有事」に関する質問だった。辺野古基地建設推進が明言されていた。 

 早稲田大学のゼミ授業。ちょうどよい機会なので、旭川医大の道新記者逮捕のケースをめぐってディスカッションする。参加者たちの意識がとても鋭い。ある意味で現役の記者たちよりも問題の本質をとらえているのではないか。夜、久しぶりに新宿でHと歓談。

テレビ界隈に「善き人々」が集っていた時代

5月24日(火) 朝、はうようにしてプールへ。泳ぐ。

 『報道特集』定例会議にオンラインで参加したあと、正午から明治記念館で「堀川とんこうさんを偲ぶ会」。あの名作『岸辺のアルバム』を手掛けた元TBSの名プロデューサーである。博識かつ人格高潔なとんこうさんのお人柄が偲ばれるよい会だった。

 僕もなぜか発起人の末席に名を連ねさせていただいた。竹山洋さん、金子成人さん、鶴橋康夫さん、池端俊策さんら、テレビの黄金時代を築いてこられたドラマ制作の現場の方々の言葉を、まんじりともせずに聞かせていただいた。とんこうさんとテレビのお仕事をご一緒された竹下景子さんや、橋爪功さんも

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