なぜ障害のある教員は少ないのか?~研修に携わった経験からみえてくること
障害児のための教育と教育現場のパターナリズム
三谷雅純 大学教員、霊長類学・人類学の研究者、障害当事者
教員はなぜ、研修が終わると大急ぎで帰るのか?
もう一つ意外なことがあります。それは、先程まで熱心に研修を受けていた人が、どの人も研修が終わると潮が引くように大急ぎで帰ってしまうのです。学生ならば講義が終わった後も、聞き逃したとか何とか言って質問するのが常なのですが(わたしも極端に疲れていなければ講義の後の質問を歓迎するのですが)、先生の研修ではそうしないのです。あまりにさっさと帰ってしまうので、慣れない内はあっけに取られてしまいました。なぜさっさと帰るのでしょう。
答えは簡単でした。先生は研修が終わるやいなや、次の仕事が待っているのです。
研修は夏休みに行われます。先生も休みのはずじゃないのでしょうか。ところがそうではないのです。まず「保護者面談」です。「保護者面談」は夏休みや夏休みの直前に行う学校が多いようです。これは子ども一人ひとりがクラスの中でどんなようすかを保護者に伝える大切な機会ですし、夏休みの過ごし方によっては二学期からの生活態度が大きく変わるためだとありました。今回のような「研修」も、夏休みにやるのが普通です。研修で得た知識を次の授業に活かすのです。
学校のある地域の夏祭りの見回りやプール開放といった行事もあるそうですし、部活動の世話もあります。部活動は「スポーツ庁の有識者会議が、休日の指導を民間のクラブや外部の人材に移行させることを柱とする提言をまとめ」((社説)部活動の改革 現場の戸惑いに応えよ)ました。しかし、部活動の大きな大会は夏休みにやる場合がよくあります。夏休みと言っても教員はけっこう忙しいのです。
あまりの忙しさに文部科学省は「教員の働き方改革」(『改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)』)を提案しました。この事例集を読んでみると、要はICT(情報通信技術)の活用と教員業務支援員に手伝ってもらって仕事の軽減化を進めようということでした。
子どもを預けている学校の先生が、必要以上に忙しいのは考えものです。誰でも同じですが、精神的な余裕がないと、まだ完成していない作業でも適当に流してしまいます。都合の悪い点には目を閉じてしまうのです。
学校の先生の例で言えば、教材の下調べができないまま授業に臨んだり、場合によっては精神的に余裕がないために怒りっぽくなるかもしれません。苛立って子どもに当たったりすることもあるのでしょうか。それぐらい「教員」という職業は忙しいのです。急ぎ足で次の仕事のために帰ることは当たり前です。

クリスマスを控え、光と音を感じる「光の学習」に、登校できない男子児童がオンラインで参加し、笑顔を見せた=長野県伊那養護学校提供
障害児のために熱心に聞くのに、障害のある教員は増えない
ここまで書いてみて、わたしは奇妙なことに気がつきました。
「障害のある子どもたちの考えていること」というわたしの研修では、障害のある子どものために教員が熱心に聞いてくれている。しかし、教員仲間に障害者は増えないという事実がある(「教育委員会における障害者雇用に関する実態調査」)。これは一体、なぜなのだろう。わたしにとって「障害のある子どもたちのために研修を受ける」という行為と「障害者を教員仲間に迎える」という行為は、心情的にはとても近いと思い込んでいたのです。
ひょっとすると「教員」という職業は
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