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バカ、バカと言いながら自身をひっぱたきたい気分

[6月7日~6月15日]どこにもないテレビ、桐野夏生さん、ウクライナ公共放送……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

6月7日(火) 午前、『報道特集』の定例会議にオンラインで参加。岸田内閣のいわゆる「骨太方針」をめぐって喧々諤々(けんけんごうごう)。

 正午前の便で沖縄へ。機内でいろいろ調べものをしていたが、「桜を見る会」前夜祭へのサントリーHDの酒類無償提供問題。思っていたほど深堀り報道がなされていないことがわかった。

 映像がみつめた復帰50年渡辺考さんの新刊『どこにもないテレビ──映像がみつめた復帰50年』(かもがわ出版)=撮影・筆者
 16時すぎから沖縄国際大学での授業。NHK沖縄の畏友・渡辺考さんのつくった番組『どこにもないテレビ』を見てもらって、学生たちに少しばかり刺激を与えてみようかと思い実行した。そうしたら、学生たちから活きのいい反応がどんどん返ってきた。何しろ、どこにもないテレビである。川平朝清(かびら・ちょうせい)さんという、沖縄の放送の生きた歴史教科書のような人物がいることがまことに貴重なのだ。

 復帰前、NHKの紅白歌合戦を民放がCMつきで放送していたなんていう事実(どこにもないテレビ!)を、あなたは知っていますか? 隠れたテーマは、沖縄の人のアイデンティティーとは何か、ということになるのだけれど、それを実にしなやかに描いていて、よくできた番組になっている。とにかく具志堅用高はすごいや。沖縄テレビの山里孫存さんが「東京を情報の一番遅い地域にしてやれ」という心意気が気持ちいい。

 那覇に戻って、何と、その渡辺考さん、『どこにもないテレビ』にも出演していた西銘むつみさんとご一緒に歓談する機会をいただいた。要するに、人なのだ。所属組織ではない。ひと。

6月8日(水) 沖縄での宿舎は今回初めて投宿したホテルだが、プールがあるというので、行ってみたところ、残念ながら泳ぐという感じとはかなり違っていた。代わりにお風呂に入って汗を流した。「毎日新聞」のコラム原稿を書く。

 沖国大の授業で、フィールドワークの一環として沖縄市が運営している「ヒストリート」(戦後文化資料展示館)に行くことを考えている。その下見に沖縄市にM君と一緒に行く。これがなかなか充実していて、ここヒストリートならば訪れてみる価値が十二分にあると結論。コザ暴動に関する資料の展示もある。大きすぎず、小さすぎず。30人の参加なら、15人ずつ2班にわけて解説してもらうことも考えなければならない。大学でマイクロバスの手配も可能だというので、大いに活用しよう。

ヒストリートにてヒストリートにて=撮影・筆者
同
同
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 15時すぎの便で羽田に戻る。さまざまな「協議事項」が待ち構えていた。ストレスフル。

ウクライナ公共放送会長に聞く戦時下での放送

6月9日(木) ストレスが極点になりつつあることもあって、こういう時は、朝、プールへ行き、とにかく泳ぐのだ。

 その後、市谷で作家・桐野夏生さんとの対談。雑誌『arc』の記事として。桐野さんとの対談は『日没』をめぐって他メディアで行ったことがあり、これが2度目ということになるが、桐野さんとは世代が近いこともあってか、どこか安心して話ができるという雰囲気がある。ウクライナ・ショックから、重信房子氏の出所にからめて桐野さんの小説『夜の谷を行く』についてもお話をお聞きしたいと思っていたのだった。とりわけ<世間とのたたかい>について。さらには、最新作『燕は戻ってこない』のことや、日本ペンクラブ初代女性会長就任という世界でも稀少な(?)現象をめぐっても話したかったので。桐野さんは身軽にお一人で会場にやって来られて、対談終了とともに軽やかに立ち去られた。あっという間の100分。

桐野夏生さんとの対談 撮影:鈴木晶子 ©『ARC』桐野夏生さん(左)との対談=撮影・鈴木晶子  ©『arc』
 その後、日本記者クラブに移動して、ウクライナ公共放送のミコラ・チェルノティツキ―会長とのオンライン記者会見に参加する。会長は若干38歳、英語で質疑に応じていた。戦時下の公共放送はどうなっているのか。まさに最もホットな状況・場所にいる人物である。NHKと日テレが取材に来ていた。

 せっかくの機会なので僕も質問した。下手な英語で次のように聞いた。「戦時下での放送で最も重要だと会長がお考えになっているポリシーは何ですか? 私がこの質問をするのは、日本のラジオや新聞が、戦時中に、勝つための報道を第一に掲げて、国民に真実を伝えそこなったという失敗をした苦い経験があるからです。勝つための報道と真実を伝える報道との間には何らかの矛盾を感じられますか?」。

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