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ツイッターが押し広げた報道メディアの「脱中心化」と「個人化」〈連載第6回〉

旧来メディアのゲート・キーパー、議題設定機能と両立しない「プラットフォーム」

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

 海外では報道メディア界の急激な構造転換が進んでいる。莫大な資金力と最先端の技術力、破壊的な創造力と強力なリーダーシップを兼ね備える異端な企業から報道メディア界への新規参入が相次ぐ。

 マス・メディア時代からネット・メディア時代への移行はほぼ完了し、これまでジャーナリズムを先導してきた新聞社やテレビ局といったマス・メディア企業の多くは防戦を強いられるのみである。この過程で報道の流通や表現の様式の量的かつ質的なコンバージョンを伴う。

 これまで一世紀以上の年月を重ねて昇華してきた報道の記事や写真のスタイルが突然陳腐化する一方、そのコンテンツが予測不能な形態にデフォルメされ、思いもよらぬ角度から市民社会に伝達される。これは、マス・メディアがこれまで存在意義の拠り所としてきたゲート・キーピング機能やアジェンダ・セッティング機能が破壊されることを意味する。これが報道メディア界の脱中心化と個人化の本質となろう。

 今回は米国の起業家、イーロン・マスク氏が買収したTwitter社に焦点を当て、個人化と脱中心化による報道メディア界への新規参入について述べていきたい。

マスク氏「Twitterは変わらねばならない」

 宇宙開発企業のスペースXや電気自動車企業のテスラの創業者として知られる米国の起業家で大富豪のイーロン・マスク氏が2022年4月、ソーシャル・メディア大手Twitter社を約5兆6000億円で買収することを明らかにした。買収後は同社株の上場廃止をし、非公開企業とする考えを示した。

テスラのイーロン・マスクCEO=2022年2月10日、米テキサス州拡大テスラのイーロン・マスクCEO=2022年2月10日、米テキサス州

 Twitterは140文字の短い文章が投稿できるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、2019年度のユーザー数は全世界で約3億3000万人、日本国内では約4500万人と世界中で浸透している。また2020年度の1日あたりの収益可能な利用回数が1億9200万回、年間の売上高が約3億7100万ドル(約5兆円)と、収益力も高い(Twitter, 2019; Twitter, 2020)。

 これらユーザーの中で、例えば米国のバラク・オバマ元大統領には1億1800万人、ドナルド・トランプ前大統領には8000万人、それぞれフォロワーがいる。これらの数字は国内の大手新聞の発行部数を遙かに上回る。つまり、個人がSNSを通じて不特定多数に多大な影響力を持つ可能性があることを意味する。

 SNSを利用した報道ではこれまで、事件事故や災害の現場の写真や動画などビジュアル面で主に活用されてきた。これに加え、要人自らの発言といった文字情報でも影響力を拡大している。トランプ氏は報道メディアを介さず、Twitterを通じて政策など自らの考えを表明することが多く、そのアカウント自体が報道メディアと同等、場合によっては凌駕する影響力を示していた。また、国内外の報道メディアやその部署もTwitterにアカウントを設け、速報や自社サイトへの導線に利用している。

 マスク氏は買収にあたり「Twitterは世界の言論の自由の基盤になりうるが、今のままではその社会的責務を果たせず、変わらなければならない。私が会社の潜在的可能性を引き出す」「Twitterは事実上の町の広場のようなものになっているのだから、法律の枠内で自由に発言できるという現実と認識を人々が持つことが本当に重要だ」などと強調した(NHK, 2022)。

マスク氏のツチート。「ツイッターのアルゴリズムに含まれる事実上のバイアスが、公の場に大きな影響を与えることを危惧している。実際に何が起きているのかを知るにはどうすれば良いのか?」とつぶやいた 拡大マスク氏のツチート。「ツイッターのアルゴリズムに含まれる事実上のバイアスが、公の場に大きな影響を与えることを危惧している。実際に何が起きているのかを知るにはどうすれば良いのか?」とつぶやいた


筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科社会情報学専攻修士課程修了、同大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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