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京ことばで語られる怪談「新選組異聞 あかずの井戸」

祇園祭宵山、壬生寺にて新選組隊士等慰霊供養祭に併せて上演

薄雲鈴代 ライター

素材ID	20160728OKYA0003A祇園祭の山鉾巡行=2016年7月17日、京都市下京区
 7月。祇園祭の1カ月が始まった。京都人は「なんとあついやおへんか」と挨拶(あいさつ)を交わしつつ、涼やかな祇園囃子(ばやし)に耳を澄ませる。山鉾(やまほこ)町の辻々から聞こえてくる二階囃子が、祇園さん(八坂神社の神々)を迎える支度のはじまったことを知らせてくれる。

 祇園祭は、疫病退散を願い、あらゆる災いを祓(はら)ってくれる祇園の神さん(素戔嗚尊=スサノオノミコト)に、京の市中(氏子町)に来てもらう祭りである。

 思いもよらぬコロナ禍にあって、昨年まで祭の中断を余儀なくされ、今まさに祇園祭の意味を知る。ようやく今年、山鉾巡行が実施される、待ち侘(わ)びての再開である。

新選組ゆかりの壬生寺で毎年行われる新選組隊士等慰霊供養祭

 7月16日、祇園祭の宵山は、いつの世も町衆の熱気が高まる。その活況の中、元治元(1864)年に起きたのが池田屋事件であった。三条小橋にあった旅館池田屋に新選組が踏み込み、勤皇派志士を襲撃、壮絶な死闘となった。さらに、これに憤激した長州藩が蜂起上京し、禁門の変へとつながっていく事件である。

壬生塚壬生寺の壬生塚
 この頃、新選組が拠点としていたのが壬生(京都市中京区)である。その縁あって壬生寺では、祇園祭の宵山に「新選組隊士等慰霊供養祭」が営まれている。境内にある壬生塚で、松浦俊昭(まつうらしゅんしょう)貫主が供養文を唱えられ、京都新選組同好会の方々や一般拝観者が参列。局長近藤勇の胸像の前で一人ずつ焼香をする。

 新選組同好会の人々は、文久3(1863)年に新選組が大丸の呉服商(現・大丸松坂屋百貨店)にオーダーした浅葱(あさぎ)色にダンダラ模様の羽織を復元して隊士姿に扮装しており、見る者を魅了する。

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近藤勇像の前で営まれた新選組隊士等慰霊供養祭=2020年7月16日、壬生寺

 池田屋騒動で亡くなった新選組隊士のみならず、襲撃された長州藩士ならびに幕末の志士を供養する法要で、昭和46(1971)年より始まり、半世紀以上続いている。

東映京都撮影所の俳優・まつむら眞弓さんによる朗読公演

 さらに今年の宵山は、慰霊供養祭に併せて、東映京都撮影所俳優部所属の女優まつむら眞弓さんによる朗読公演が上演される。壬生寺境内にある塔頭「中院」の本堂で行われる。洛陽三十三観音霊場の二十八番札所である。本尊十一面観音菩薩(ぼさつ)が背後で見守るなか、まつむら眞弓さんの語りと、津軽三味線の川合絃生(かわいげんしょう)さんの生伴奏のみが繰り広げる‘物の怪’語りの世界である。

演奏まつむら眞弓さん(左)と、津軽三味線で生伴奏する川合絃生さん=壬生寺中院で、撮影・堀出恒夫さん

 先日、壬生寺中院で行われたリハーサル風景を拝見したが、まつむらさんが語り出すやいなや、背筋にぞわっと戦慄(せんりつ)が走った。舞台に仕掛けがあるわけでもなく、ただまつむらさんの語りと、三味の音と、ツケ板を打つ響きだけである。

まつむら眞弓さん=撮影・堀出恒夫さん

 まつむらさんは、映画「北の桜守」「最高の人生の見つけ方」「花戦さ」をはじめ、テレビでは「科捜研の女」「遺留捜査」「特捜9」など名だたるドラマに出演。その傍ら、京ことばによる怪談朗読に取り組まれ12年になる。怪談を語るきっかけとなったのが、嵐電京福電車の車内で「耳なし芳一」と「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」を上演したことによる。以来、京都法然院や東京の泉岳寺をはじめ全国各地で公演。その活動は日本にとどまらず、遠くアメリカサクラメント市でも上演され、今年「京都もののけかたりの会」を立ち上げられた。

モノ語ることは鎮魂に通じ、亡き者たちが癒される

朗読公演まつむら眞弓さんが京ことばで語る怪談朗読公演
 朗読公演と銘打たれているが、いやいや、まさしく、まつむら眞弓さんのひとり芝居である。細やかな仕草(しぐさ)あり、殺陣の所作あり、表情、声音の七変化、いつの間にか魅入られてしまう。物語の途中に、幼女が京のわらべ歌を唄(うた)う場面があるが、その高音の邪鬼のなさが、なんと異界を思わすことか。
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