2022年07月14日
明らかにされている山上徹也容疑者の供述から判断すると、安倍晋三元首相殺害はいまのところ宗教団体に入れ上げた母親による家庭崩壊と破産への恨みに基づくものであり、テロや暗殺と呼ぶべき政治的あるいは宗教的な動機は薄いということになっている。
もっとも、元首相をこの宗教団体=旧「統一教会」(現「世界平和統一家庭連合」)と関連づけて殺害しようと強く決意するためには、両者の間にある政治的で宗教的な背景と歴史とをかなり調べ込む必要があったろう(以下、敬称・呼称略)。
その文鮮明が政治組織として1968年に創設したのが「国際勝共連合」だ。
冷戦構造下、神の摂理に反する「サタンの共産主義」に打ち勝つことを使命とした韓国および日本の勝共連合は、当時の朴正煕韓国軍事独裁政権の庇護を得、日本の笹川良一、児玉誉士夫、岸信介ら右翼や反共政治家とも繋がった。自主憲法論者で再軍備を主張する安倍元首相並びに清和会の勝共との親和性は、祖父の代から続くものだ。
一方で統一教会の方は90年代から社会的バッシングに遭い、保守政治家たちも距離を置くことになる。が、名称を「世界平和統一家庭連合」と改め、ここ十数年で政界右派に再接近していた。「世界平和」と「家庭」なら、「統一教会」という名称にこびりついたスティグマやアレルギーもかなり躱(かわ)せる。
事実、元首相も「強靭な国・日本」「救国ロードマップ」などの大見出しとともに国際勝共連合の機関誌「世界思想」の表紙を何度も飾り、昨年9月には同じく文鮮明とその妻が創設した統一教会の友好団体「UPF(天宙平和連合)」の集会に5分間のビデオ・スピーチを送った。山上はこのビデオで両者の関係を自らに焼き付けたようだ。
ちなみに同集会ではドナルド・トランプもビデオ基調講演を行い、元首相は「世界平和を共に牽引してきた盟友トランプ大統領とともに演説する機会をいただいたことを光栄に思う」「UPFの平和ビジョンにおいて家庭の価値を強調する点を高く評価する」と笑顔で祝辞を述べている。
世界平和統一家庭連合会長は7月11日の記者会見で「教会に対する恨みから、安倍元首相の殺害に至るには大きな距離があって困惑している」と話したが、山上は「家庭を壊した統一教会を日本に招いたのが岸信介で、その孫の安倍を狙った」と供述したという。安倍殺害現場は、世界平和統一家庭連合の奈良家庭教会から300mと離れていない。応援演説の聴衆の中にも教会員が少なからずいたという。山上にとっての二者には「大きな距離」はなかった。
トランプは大統領選勝利のためにキリスト教原理主義の福音派の歓心を買おうと中絶権や性的少数者権利運動への反対を表明した。その経緯と成り行きは、連邦最高裁判事の指名人事に象徴されるように米国の各種報道メディアで逐一リポートされてきた。それは「産めよ、増やせよ」という旧約聖書創世記の教えに忠実に、最高裁での中絶権の否定に結びついた。次は同性婚の中止・撤廃だとさえ言われる。
一方で、政権交代の辛酸を舐めた第二次安倍政権は、二度と下野しない長期安定政権を目指して同じく巨大な宗教組織票とカルト的岩盤支持層の取り込みを図った。それがこの旧統一教会や神社本庁などとの強い紐帯でもあるとの可能性は、日本の報道メディアはあまりリポートしてこなかった。
旧統一教会が合同結婚式を主宰までして自らの「家族」を創造しようとしているのは、
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