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たかまつなな氏が紹介した「余命投票制度」に反対する2つの理由

赤木智弘 フリーライター

 7月10日に行われた参議院選挙。直前での安倍元首相の銃撃事件というショッキングな出来事もあり注目を集めたが、全体の投票率は52.05%と、国民の半数近くが権利を行使しなかった。

 中でも若者の投票率は低く、総務省の発表によると、10代の投票率は速報値で34.49%。3年前の参院選よりは増加したものの、全体の投票率からは約18ポイントも下回っている。これを書いている時点でまだ「年齢別投票者数調」は総務省から発表されていないが、これまでの傾向から20代の投票率は10代よりも低いと予想される。

 国も若者の投票率を上げようと、人気タレントを登用してのキャンペーンを行うなど、様々な施策を打ってはいるが、なかなか成果は上がらないようだ。

 さて、若者の投票率を上げるためにはどうしたものかと考えていると、ふと1ヶ月ほど前に発生した「余命投票制度」を巡る一連の騒ぎを思い出した。

 発端となったのは、橋下徹氏がホストを務める「ABEMA」の番組上で、ジャーナリスト・タレントのたかまつなな氏が「シルバー民主主義打破のために、若者に発言権を」と提案し、「余命投票制度」を紹介したことである。

若者の声をどう政治に反映させるかを訴えているたかまつなな氏若者の声をどう政治に反映させるかを訴え続けているたかまつなな氏

 「シルバー民主主義」とは、少子高齢化の影響により、有権者に占める高齢者の割合が高くなったことで、政治の場で彼らの声が通りやすい状況になったことを指している。

 それを是正するために、「一人1票」ではなく、平均寿命から投票者の年齢を差し引いた分をポイントとすることで、票に傾斜を付けようというのが「余命投票制度」の考え方である。番組内で、たかまつ氏は「例えば平均寿命が100歳だとしたら、28歳の私は72ポイント、50歳の人なら50ポイント」と述べている。

 これによって、未来志向の政治となり、政治家も若い人に目を向けなければ当選できなくなるというのである。

 たかまつ氏の発言はTwitterなどで「優生思想ではないか」「国民の分断を煽っている」として多くの反発を呼んだ。

 批判に対してたかまつ氏は余命投票制度を紹介した真意を説明する動画をアップロードし、「若い人の声をどうやってより政治に反映させるか」が主張のメインであったと説明した。

高齢者から虐げられ、若者たちによって排除され

matsu5matsu5/Shutterstock.com

 もちろん、若者の投票率を上げることは重要だ。だが、仮に若者の投票率が高齢者より高くなったとしても、人口自体が高齢者よりも少ないのだから若者の声は通りにくいままだろう、だから制度設計による是正が必要だ、という意見にも一理ある。

 しかし、いくら「思考実験」とはいえ余命投票制度は明確に間違っていると考えている。

 その理由だが、まず1つは「主張するのが遅すぎなかったか?」という点だ。

 かつて、高齢者が金と既得権を握っていた時期があった。戦後復興とそこから続く高度経済成長の下で、ひたすら働いてさえいれば当たり前のように毎年所得が増えた世代の人たちは、当たり前のように結婚して、当たり前のように家を買い、当たり前のように裕福に暮らしていた。

 しかし経済成長もやがて衰えを見せ始め、世代が下るにつれ、同じように働いていても同じような賃金は得られず、生活は徐々に苦しくなっていった。

 やがてバブルも崩壊し就職氷河期が訪れると、正社員の職に就けず非正規で働かざるを得ない人が増え、無事正社員になったとしても、かつてのような年功序列的な賃金すら望めなくなった。

 この時代、つまり高度経済成長下で働いて稼いだ高齢者と、低成長の中で働いて稼げなかった若い現役世代が対立していた頃に「シルバー民主主義の打破」を訴えることには、確かに妥当性があったのである。

 だからこそ僕も当時は、高齢者の既得権益を一刻も早く若者に回すように主張し、シルバー民主主義の打破を叫んでいたのである。

 しかしそれから時間が経ち、かつては若かった就職氷河期世代もすでに50代に突入している。この世代は団塊ジュニア世代、あるいは第二次ベビーブーム世代と呼ばれ、本来であれば第三次ベビーブームを生み出すことのできた世代である。だが結果はご存じの通りだ。

 そしてなにより、

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