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[63]「絆原理主義」の政治が拒む現実との対話

宗教右派的家族観に同調し困窮者の権利を切り崩す

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 高くて厚い「壁」が前途に立ちはだかっている。「壁」の向こう側にいる人たちと対話を試みようにも、言葉が届かない。

 生活困窮者を支援する活動を進め、国に貧困対策の拡充を求める中で、そのように感じることがたびたびある。

 例えば、生活保護の利用に伴う扶養照会の問題がある。

生活保護バッシングに乗じた制度改悪

 扶養照会とは、生活保護を申請した人の親やきょうだい等の親族に対して、福祉事務所が援助の可否を問い合わせることである。私たち支援団体は以前から、扶養照会が生活に困窮する人々が生活保護を利用する際の最大のハードルとなっていると問題視し、改善を要望してきたが、国は聴く耳を持とうとしなかった。

 2012年5~6月には、当時、野党だった自民党の片山さつき参議院議員らが芸能人の親族の生活保護利用を「不適切」だとするキャンペーンを展開。このキャンペーンが発端となり、テレビや週刊誌では連日、事実に反して生活保護の不正受給が蔓延しているかのような印象を与える報道が垂れ流され、「生活保護バッシング」が吹き荒れた(注1)。私たちが緊急で開催した電話相談会には、生活保護の利用当事者から「テレビを見るのも、外に出るのも怖い」といった悲痛な声が多数寄せられた。

 2012年12月に政権復帰した安倍政権は、生活保護利用者に厳しい対応を求める「世論」を追い風に、翌2013年、生活保護基準の引き下げと生活保護法の「改正」を強行した。この法「改正」によって、福祉事務所は民法上、扶養義務のある親族に対して「報告を求める」ことができる等、従前以上に圧力をかけることが可能となった。

抗議拡大2013年の生活保護費引き下げをめぐる訴訟で、名古屋地裁は「国民感情を踏まえた自民党の政策を厚生労働相は考慮できる」として原告の請求を棄却した。判決翌日の集会で判決に抗議する参加者=2020年6月、衆議院第一議員会館

 時代に逆行する法制度の変更に反対の声が高まる中、政府は国会での審議において、親族への報告の要求は「極めて限定的な場合」に限るとトーンダウンする答弁をおこなった。しかし、その一方、扶養義務者の収入や資産の調査にマイナンバーを活用するのかという質問への答弁では、その可能性を否定しなかった。

家族の「絆」を強調し国の責任を放棄

 生活保護基準を引き下げて貧困対策にかける予算を削減しつつ、家族による支え合いを推奨し、時に強要する。「絆」を強調することで国の責任を後退させようとする安倍政権の姿勢を私は「絆原理主義」と呼んで批判していた。

 2013年当時、私は自民党と宗教勢力とのつながりに着目していたわけではないが、格差・貧困の拡大や家族関係の希薄化といった日本社会の現実と向き合うのではなく、現実の方を自らのイデオロギーに合わせて都合よく解釈し、改変しようとする自民党の動きを「原理主義」的であると感じたのだ。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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