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長塚圭史さんとの対談に危うく遅れそうになった

[6月25日~7月1日]神奈川芸術劇場、『PLAN 75』、ヘルツォーク……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

6月25日(土) 沖縄県立博物館での講演チラシのための短文を送る。『報道特集』のオンエア。前半がコロナ予備費の使われ方検証。C編集長らがこだわって調査報道を続けてきた成果がきちんと出ていた。後半が、静岡県の熱海市で発生した土石流の原因となった盛り土のずさん管理(故意の放置という犯罪的な行為)をめぐる静岡放送(SBS)の取材。どちらも当事者・現場をよく取材していた。

 オンエア後、神保町界隈の不快事で夜遅くからZoom会議。

6月26日(日) たまり続けているストレスを和らげるために朝、プールへ行き少しでも泳ぐ。予め郵送されていたコロナの抗体検査キットで、自分で検査をする。陰性の判定。まあ、安心料みたいなものだ。

 以前から約束していたKAAT=神奈川芸術劇場の芸術監督・長塚圭史さんとの対談にのぞむため自宅から横浜市営地下鉄に乗って桜木町で降りたところ、駅前広場で異変が起きているではないか。参議院選挙の応援演説で麻生太郎元首相が訪れるというので駅前が大混雑している。僕は駅前からタクシーでKAATへ向かおうと思っていたのだが、タクシー乗り場が選挙運動のため一時閉鎖されているではないか。まいった。それで慌てて駅まで戻ってJRで関内まで移動した。ところが関内駅周辺でもなかなかタクシーがつかまらない。約束の時間が迫っていた。まいった。駅から少しだけ移動したら何と奇跡的に空車のタクシーが1台やって来た! 僕は大胆に車道に躍り出てそのタクシーを半ば強引に停めて車内に滑り込んだ。それもこれもみんな麻生太郎元首相のせいだ。違うか。

 KAATの前に到着すると、玄関前にMさんが不安げな表情で待ち構えていた。「ごめんなさい!」。謝りながらエレベーターでKAATの中に一目散で上っていった。長塚さんをはじめ、撮影のカメラマンの方や、インタビュー記事のまとめ役の方々らが待ち構えていた。あとはほとんど即興で長塚さんと話をした。コンテンポラリー・ダンスにまつわる話や、劇場という空間自体が持つ豊かさ。個々の作品についての記憶など話がどんどん飛んで行ってしまった。これで話がきちんとまとまるかどうか、ちょっと不安だったが、もう仕方がない。

神奈川芸術劇場の芸術監督・長塚圭史さんKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・長塚圭史さん

麻生太郎元首相のモノマネをする松元ヒロさん ピースボートのHPより麻生太郎元首相のモノマネをする松元ヒロさん=ピースボートのHPより
 KAATの長塚さんや、世田谷パブリックシアターの野村萬斎前芸術監督、白井晃現芸術監督らは、自らも卓越したパフォーマーであって、海外の作品に対する造詣も深い。だから驚くほど最先端のものが上演されたりする。公共劇場はこうじゃなくっちゃ。帰途、笈田(おいだ)ヨシさんのことに言及しておけばよかった、と深く後悔。それもこれもみんな麻生太郎元首相のせいだ。違うか。

6月27日(月) 朝、とにかくみたかった映画『PLAN 75』を近所の映画館でようやくみる。自分以外の観客がどんな人たちなのか意識しながら映画館内を見渡した。何だかちょっと怖くなった。と言うのは、この映画館の観客は明らかに圧倒的に高齢者が多かったからだ。もちろん僕もそのうちの一人だ。倍賞千恵子の存在感が際立つ。

PLAN 75』 6 月 17 日(金)より、東京・新宿ピカデリーほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee『PLAN 75』 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
早川千絵監督(左から2人目)は舞台あいさつで、「PLAN 75」を「たくさん余白のある映画です」と表現した=2022年6月18日、東京都新宿区『PLAN 75』の舞台挨拶で。左から俳優のステファニー・アリアンさん、監督の早川千絵さん、主演の倍賞千恵子さん、俳優の磯村勇斗さん=2022年6月18日、東京都新宿区

 午後、早稲田大学のゼミ。映画『日の丸〜それは今なのかもしれない〜』の佐井大紀監督に来てもらって、ゼミ生らとディスカッション。ちょっとばかり盛り上がった。方法論ということに徹底的にこだわること自体が素晴らしい。今のテレビ業界界隈では突然変異みたいなもんだ。

 神保町界隈の不快事で夜、またまた緊急Zoom会議。相当によろしくない。最悪の展開に。

沖縄の現代史が共有・伝承されていない

6月28日(火) 頂点に達しつつあるストレスを幾分かでも解消するために朝、プールへ駈け込み泳ぐ。『報道特集』の定例会議にオンラインで参加してから、再びプールに戻り追加で泳ぐ。今週は、物価高を扱わない選択肢はないのかもしれないな。とにかく自由につくることだ。

 午後4時すぎから沖縄国際大学の授業。今回は沖縄には行けず、オンラインで。今年、沖縄本土「復帰」50年をめぐるテレビ報道は、あるようでいてなかなか良質のものは数が限られている。すぐに思い浮かぶのは、NHK沖縄の渡辺考氏がつくった『どこにもないテレビ』、同じくNHK・Eテレ『ETV特集』で放送された『君が見つめたあの日のあとに〜高校生の沖縄復帰50年〜』(初回放送日: 2022年5月14日)あたりだ。

 後者の作品を授業参加者と一緒にみてディスカッションを試みた。吉岡攻氏の作品だ。コザ暴動を扱った作品と同様にきわめて署名性の強い作品だ。写真家として返還前の沖縄の写真を撮り続けていた吉岡氏ならではの作品だ。写真というメディアは強い。時を定着させる。記録の力は動画以上のものがある。動画は流れてしまうのだ。1968年の読谷高校の校庭での生徒たちの公開討論会の写真などは強烈に迫ってくるものがある。被写体となっていた彼ら彼女らの真剣な表情。美しい。彼ら彼女らの50年後を吉岡氏が愚直に訪ね歩く。そこから沖縄の戦後史が浮かび上がってくるような構成になっていた。

NHK・Eテレ「ETV特集」NHK・Eテレ「ETV特集」のサイトより

 沖国大の学生たちに、当時の高校生たちの姿がどのように映ったのかを知りたかった。学生たちの反応はとてもよかった。けれども反応の多くは、「こんなことがあったことは知らなかった」というもので、いかに沖縄の現代史が共有・伝承されていないかを逆に突きつけられた。本土「復帰」とは、何かを忘れさせる、消し去る過程でもあったということか。

『歩いて見た世界』は途轍もない作品

6月29日(水) 神保町の岩波ホールが7月29日をもって閉館となる。ひとつの歴史が終わる。神保町へ行き、古書を求めて散策し、共栄堂(大正13年創業!)のスマトラ・カレーを食べてから、岩波ホールに飛び込んだ。

 最後の上映作品、ヴェルナー・ヘルツォークの『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』をみる。途轍もない作品だ。

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